読了本2008・文芸書

駅神ふたたび

「犬の相続」「妹の恋人」「浮気」「八卦仙仙術大会」「進退伺い」 占い師たちが寄り集まって、ああでもない、こうでもないと言いながらワイワイやっているのが好きなので、「犬の〜」と「妹の〜」がおもしろかった。「八卦仙」は前回はともかく、今回はやり…

文藝怪談実話

人魚は空へ還る

表紙を飾る下村冨美のイラストと中身の雰囲気がよくあってました。雑誌記者里見高広と人気絵師有村礼が明治の東京に起こるささやかな事件を解決する帝都探偵物です。 母親に捨てられた子や、美しさのために手段を選ばない女性、自分を省みなかった夫に復讐す…

旅芝居怪談双六

バイクでひとり旅をしていた青年が旅先で出会ったのは、老いた旅芸人の男だった。老人は、古い芝居小屋で、芝居にまつわる妖しくも哀しい物語を語り出す…。 数日をかけて、老人が自分の人生で聞いた、あるいは経験した怪奇譚をぽつりぽつりと語り聞かせてく…

武士道セブンティーン

『武士道シックスティーン』の続編。前回は剣道一直線の磯山香織ちゃんでしたが、今回はお気楽不動心の甲本早苗が壁にぶちあたります。九州の剣道強豪校に転校して、指導法や部の雰囲気になじめないことをきっかけに、剣道をする自分を見つめなおすという、…

ポドロ島

「ポドロ島」「動く棺桶」「足から先に」「持ち主の交代」「思いつき」「島」「夜の会」「毒壜」「合図」「W.S」「パンパス草の茂み」「愛し合う部屋」 怪奇小説が好きなので、もちろん「ポドロ島」は創元の「怪奇小説傑作集」で読んでいたのですが、有名な…

いっちばん

「いっちばん」「いっぷく」「天狗の使い魔」「餡子は甘いか」「ひなのちよがみ」 最近は、不満の残ることが多かった「しゃばけ」シリーズですが、今回は安定したおもしろさを楽しめました。「いっぷく」「餡子〜」「ひなの〜」は前作の登場人物が再登場する…

夏のくじら

読んでいるあいだは、著者が「威風堂」シリーズの大崎梢だということを忘れていました。引き出しが広くて、なんでも器用に書いてしまえる作家さんですねー。「器用に」というのは、クリエイターにはあまり褒め言葉にならないかもしれません。でも強烈な個性…

武士道シックスティーン

剣道に命をかける、熱血スポコン少女磯山香織と、父のリストラにより日本舞踊を続けられなくなってなんとなく剣道を始めた「お気楽不動心」少女西荻早苗の高校部活動物語。磯山香織ちゃんの、強烈なキャラクターに最初から笑いが止まりません。お弁当を食べ…

マイナス・ゼロ

古典SFを読もう第4弾。 もっとクールな話だと思いこんでいたら、三丁目の夕日的なノスタルジーに満ちたタイムトラベルもので面食らいました。舞台は、戦時中、復興期、昭和初期と移り変わっていきますが、その当時の世相を盛り込んで、知っている人には懐か…

ヴァン・ショーをあなたに

「錆びないスキレット」「憂さ晴らしのピストゥ」「ブーランジュリーのメロンパン」「マドモワゼル・ブイヤベースにご用心」「氷姫」「天空の泉」「ヴァン・ショーをあなたに」 後半の三舟さんの修業時代の3話もなかなか良かった。とろけるような食感のオム…

酔郷譚

「桜花変化」「広寒宮の一夜」「酔郷探訪」「回廊の鬼」「黒い雨の夜」「春水桃花源」「玉中交歓」 慧君とのつきあいは結構長い。はじめて東京駅前の八重洲ブックセンターに行った高校生のとき、あんなにたくさん本が並んでいるのをはじめて見た私は嬉しくて…

楽園の泉

古典SFを読もう第3弾。 宇宙エレベーターの建設なので「プロジェクトX」っぽいのかと思っていましたが、技術者の苦労よりも、特に前半は政治的、社会的な葛藤に重点が置かれていました。こういうのを読むと、今この瞬間に宇宙エレベーター建設の計画が進んで…

平台がおまちかね

てっきり威風堂シリーズかと思い込んでいたので、カバー見返しを見てずっこけました。一見爽やかで善良そうな好青年が、新米出版社営業として東奔西走する日常の謎系ミステリーです。 出版社営業は、本に携わる人の中でもあまり知られていない仕事なので、井…

RDG レッドデータガール はじめてのお使い

なんとなく、こう…CLAMPの「X」の絵柄で脳内変換して読みました。現代日本で巫女や山伏のような時代錯誤の能力者が神霊や大きな運命と闘うという印象が私の中で繋がったのかもしれません。それにしても、泉水子が主人公のはずなのに、深行の心情にものすごく…

ラン

タイトルで、また新鋭女性作家による「走る」スポーツものか、流行ってるなあと思った。森絵都が流行に乗ったというわけではなくて、「走る」という行為がどこか「書く」という行為と似ているところがあるため、プロとして軌道に乗りだした作家がテーマとし…

われはロボット

「ロビィ」「堂々めぐり」「われ思う、ゆえに」「野うさぎを追って」「うそつき」「迷子のロボット」「逃避」「証拠」「災厄のとき」 古典SFを読もう第二弾。「ロビィ」だけは読んだ記憶があるのだけれど、他はたぶん初めて(もしかすると大昔に読んだかも…

遊郭のはなし

「赤い櫛*女中のはなし」「死化粧*技夫のはなし」「八幡の鏡*女将のはなし」「紙縒の犬*内芸者のはなし」「幽霊の身請け*幇間のはなし」「遣手猫*客のはなし」「無常桜*遣手のはなし」「紅葉狩り*禿のはなし」「木魂太夫*花魁のはなし」「手鞠*地…

人くい鬼モーリス

モーリスってそういう意味か! あとがきから先に読んで、身体が震えた。その一冊だけで様々な論文が書かれているほど大人を、もちろん子どもも魅了し続けている絵本の傑作からうまれた、一匹のふしぎな「かいじゅう」人くい鬼。人くい鬼は、死んだ生き物を観…

ブラック・ジュース

「沈んでいく姉さんを送る歌」「わが旦那様」「赤鼻の日」「愛しいピピット」「大勢の家」「融通のきかない花嫁」「俗世の働き手」「無窮の光」「ヨウリンイン」「春の儀式」 なんと言っても、表紙を飾っている「沈んでいく姉さんを送る歌」が秀逸。夫を殺害…

白鹿亭綺譚

古典SFを読もう第一弾。 大の男がパブに集まって、ホラ話に興じるというなんともしょうもない(失礼)設定で、肩の力を抜いて読めました。どこまでが現実の科学的な成果に基づいていて、どこからがホラ話なのか私にはさっぱり分からないので、徹底徹尾嘘らし…

妙なる技の乙女たち

「天上のデザイナー」「港のタクシー艇長(スキッパー)」「楽園の島、売ります」「セハット・デイケア保育日誌」「Life me to the Moon」「あなたに捧げる、この腕を」「the Lifestyles Human-beings At Space」 軌道エレベーターの城下町リンガ(ずいぶん…

隣の怪 蔵の中

う〜ん、やっぱりこういう実話系怪談では木原さんの文章が、頭ひとつ飛び抜けて読みやすい上、リアリティがあり、怖いです。ところが「桜の墓」のように、創作の要素が濃くなると、あまり面白みがなくなってしまうような。私の好みの問題かもしれませんが、…

怪談実話系 書き下ろし怪談文芸競作集

そろそろこういう季節になってきました。今年はあまり積ん読せずに買ったらせっせと読むという目標を立てておきます。 十名の書き手が「実話系」(この系というのがミソ)の怪談を書いているアンソロジーです。 「実話怪談」というと、「信じる」「信じない…

黒い玉 十四の不気味な物語

ルドンの表紙こえー。こういう内容にぴったりな芸術作品を表紙につけられると、本の造形そのものが愛おしくなります。デザイン考える人は、内容読んでふっと連想した作品を使ったりするのかしら。楽しいだろうな。 表題作はさすがの不気味さ。オチは、「ああ…

ぶたぶたと秘密のアップルパイ

いつものぶたぶたワールドで、さくっとした薄いパイ生地を割ると、中からとろとろのカスタードクリームと歯ごたえの残っているりんごがあふれてくるというアップルパイもおいしそうだった。でも、ちょっとだけひっかかることが。椛さんの見ていた「それ」が…

遠まわりする雛

「やるべきことなら手短に」「大罪を犯す」「正体見たり」「心あたりのある者は」「あきましておめでとう」「手作りチョコレート事件」「遠まわりする雛」 甘酸っぱい…甘酸っぺえよ! ホータロー君それは…だ。しかし言ってしまうのは、なんだか無粋なような…

タルト・タタンの夢

「タルト・タタンの夢」「ロニョン・ド・ヴォーの決意」「ガレット・デ・ロアの秘密」「オッソ・イラティをめぐる不和」「理不尽な酔っぱらい」「ぬけがらのカスレ」「割り切れないチョコレート」 ちいさなフランス料理店を舞台にした日常の謎系ミステリー。…

いのちのパレード

「観光旅行」「スペインの苔」「蝶遣いと春、そして夏」「橋」「蛇と虹」「夕飯は七時」「隙間」「当籤者」「かたつむり注意報」「あなたの善良なる教え子より」「エンドマークまでご一緒に」「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」「SUGOROKU」「…

楽晶珠

唐代の武則天から玄宗皇帝による開元の治を舞台にした時代小説なのですが、そこで活躍する主人公たちは、神獣に導かれた桃源郷でその時代を生きている夢を見ている…という何とも摩訶不思議な設定。普通の歴史小説ではいけなかったのかと思えるほど、宮廷での…