夏のくじら

夏のくじら
 読んでいるあいだは、著者が「威風堂」シリーズの大崎梢だということを忘れていました。引き出しが広くて、なんでも器用に書いてしまえる作家さんですねー。「器用に」というのは、クリエイターにはあまり褒め言葉にならないかもしれません。でも強烈な個性のある作家さんではないと思うんですよね。でも、上手い。
 「夏のくじら」は高知のよさこい祭りを題材にした青春小説です。中学生の時に一度だけ参加したよさこい祭りで、一目惚れした女性との約束を果たすために、再びよさこいに関わることになる大学1年生が主人公の、直球ど真ん中の恋愛小説でもあります。名前しか知らない彼女を探すのは、まさに、君の名は。
 よさこい祭りの参加チームは、毎年メンバーも、歌も、踊りも変えるので、それをプロに頼むために結構お金がかかること。100名前後の踊り手の練習会場を確保しないといけないこと。当日は、15カ所の舞台を順番に回って踊ること。歴史の浅い神仏に関係のないフェスティバル的なお祭りなので、いままで少し軽視していたところがあったのですが、認識が変わりました。この祭りを維持し続けていくパワーには感動させられます。そういう、よさこい祭りの熱気(当日だけでなく、準備期間も含めて)を余すところなく伝えていて、最後まで一気に読んでしまいました。

土佐の高知のよさこい祭り

「…覚悟らぁ、スーパーで売りゆう豆腐みたいなもんやきね。…」