怪談実話系 書き下ろし怪談文芸競作集

怪談実話系 書き下ろし怪談文芸競作集 (MF文庫ダ・ヴィンチ)
 そろそろこういう季節になってきました。今年はあまり積ん読せずに買ったらせっせと読むという目標を立てておきます。
 十名の書き手が「実話系」(この系というのがミソ)の怪談を書いているアンソロジーです。
 「実話怪談」というと、「信じる」「信じない」、「本当にあった」「なかった」という二者択一の話になりがちで、私の「好き」はそういうところにはないんだ、ということをいつもうまく説明できません。編者がはじめに書いてあるように「虚実の境界領域(ボーダーランド)」にあって、「虚実皮膜のリアルサイドに楔を打ち込み、亀裂を走らせ、我々の現前にある現実(リアル)を震撼せしめる」のが醍醐味だと思うのですが。自分のイメージで言うなら、この世とあの世、現実と虚構のあいだに暗幕があって、それがちょっと風でめくれて向こう側がチラッと見えてドキッとする感じ。チラリズムの美学。
 「新耳袋」みたいに「実話」っぽい作品から、明らかに「虚構」としか読めない作品まで、バリエーションに富んでいて飽きずに読めました。短編の中にさらに短い話を詰め込んだ「怪談BAR」と「顳顬 蔵出し」のような「実話」よりの話がやはり私には面白く読めます。京極夏彦さんの作品は、他の創作作品とは少し違う書き方をしていてこういうのも書けるのか、と思ったり。でも認識論が出てくるところは京極節が炸裂していました。一番怖かったのは「顔なし地蔵」ですね。深読みしすぎかもしれませんが、巻き込みたくないと言いつつ「お前も行けよ」という手紙の差出人の声が聞こえてきそうで。岩井志麻子のは怪談と言えるのかどうか…。