楽園の泉

楽園の泉 (ハヤカワ文庫SF)
 古典SFを読もう第3弾。
 宇宙エレベーターの建設なので「プロジェクトX」っぽいのかと思っていましたが、技術者の苦労よりも、特に前半は政治的、社会的な葛藤に重点が置かれていました。こういうのを読むと、今この瞬間に宇宙エレベーター建設の計画が進んでいるような奇妙な錯覚にとらわれますね。
読み始めていきなり、千年前の絶対君主の悲劇的な歴史と、現代の宗教指導者の独白が交互に描かれ、時間軸が複雑に交錯する様に面食らいましたが、ここでぐっと引き込まれてしまいました。これからどんな物語が始まるんだろう…とわくわくします。とにかく、時間軸のめまぐるしい話で、最初をのぞけばほぼ直線的に話は進むのですが、2,3章かけて一ヶ月間の出来事を描いたかと思えば、章が変わったとたん、十七年もの歳月が過ぎていたりして、読者としての立ち位置を定めるのに、少し時間がかかりました。宇宙エレベーターという人類始まって以来の巨大建築物を作り上げるのに、関わった人や費やした時間をすべて書ききれるわけもなく、その膨大な出来事のほんの一部分を、作者が任意に選び出して描いているように思えてきます。
 そして、最後の100ページを読むのには、5時間かかってしまいました。高所恐怖症で閉所恐怖症の私にとって、たったひとりで、狭いカーゴに乗って地上何千メートルの中継地点まで行くなんて、読んでいるだけで息も絶え絶えになるほど苦しかったです。しかし、65歳のおじいさんががんばっているのに、私が投げ出すわけにはいきません。たった35時間に、小説全体の三分の一を費やした濃密な描写にめまいを覚えながら、読み切りました。
 そして、エピローグでは、宇宙エレベーター建設から、また何千年もの年月が流れている…そのスケールのとんでもない大きさに圧倒されました。今更、私ごときが言うまでもないことですが、傑作。
 ところで、パーラカルマ師(チョラム・ドールドバーグ博士)は、いったい何をしたんでしょうね。暴風を起こして黄金の蝶を舞いあがらせたのは、彼の仕業なんでしょうか。あんなにエレベーターをタブロパニーに建設するのを嫌っていたのに。
日本宇宙エレベーター協会
 こういうページを見つけると、小説と現実の区別があいまいになるというか、ほんとに実現可能なことなんだなと不思議な気持ちになります。コンテンツの「宇宙エレベーターが登場する物語」には「楽園の泉」の他に「機動戦士ガンダム00」も紹介されていて少しびっくり。あのアニメを見てはじめて、宇宙エレベーターのイメージがつかめたんだよなあ。映像の力は偉大です。