ポドロ島

ポドロ島 (KAWADE MYSTERY)
「ポドロ島」「動く棺桶」「足から先に」「持ち主の交代」「思いつき」「島」「夜の会」「毒壜」「合図」「W.S」「パンパス草の茂み」「愛し合う部屋」
 怪奇小説が好きなので、もちろん「ポドロ島」は創元の「怪奇小説傑作集」で読んでいたのですが、有名な最後のシーン「あれは飢えているから、とても待ってはくれないものね」の意味が腑に落ちたのは、今回の訳が初めてです。鈍すぎるかもしれませんが、ハートリーの作品は、物事を直截的に描かないので、読んでいると頭がしびれたようになってぼんやりしてしまう…。おまけに、解釈の仕方も一通りでないので、最初読んだときは、普通にミステリーなのかと思っていました。
 「W.S」も何かのアンソロジーで読んだことがあり、例によって作者の名前には注意を払っていなかったので、今回初めて「ポドロ島」と同作者だと知りました。この作品も、オチに痛烈な皮肉が効いているうえ、分かりやすいので好きな作品です。同系列の「動く棺桶」「思いつき」も、悪魔的な諧謔精神に思わずにやりとさせられました。また、主人公の内面で静かに物事が進行し、不気味な余韻を漂わせる「夜の怪」「合図」のような短い作品も、ハートリーの「わかりにくさ」が抑えられていて、すっと入っていけました。
 特に気に入ったのは「愛し合う部屋」です。蚊と熱気に苛まれる主人公の気怠さがこちらにまで乗り移り、ヴェネチアの上流階級の上品でありながらもどこか淫靡なパーティーの雰囲気に飲まれました。
 訳者の解説は、ところどころ「考えすぎでは…」と思うところもありましたが、作品の多面的な見方を提示してあって、読書の助けになりました。