ブラック・ジュース

ブラックジュース (奇想コレクション)
「沈んでいく姉さんを送る歌」「わが旦那様」「赤鼻の日」「愛しいピピット」「大勢の家」「融通のきかない花嫁」「俗世の働き手」「無窮の光」「ヨウリンイン」「春の儀式」
 なんと言っても、表紙を飾っている「沈んでいく姉さんを送る歌」が秀逸。夫を殺害した罪で、底なしのコールタール沼に沈んでいく姉を、家族がそばで見守るという残酷で切ない物語です。必要最低限の情報が的確に各所に織り込まれて、この家族と罪人の置かれた立場を浮き上がらせる手法はお見事でした。むごい話にもかかわらず、全体的にカラリと乾いていて妙に明るい雰囲気があるのもいい。
 どの短編も、奇妙な世界のなかにぽんと放り込まれて、つかのま、小説の登場人物と人生をともにするという不思議な感覚を味わえました。