ラン

ラン
 タイトルで、また新鋭女性作家による「走る」スポーツものか、流行ってるなあと思った。森絵都が流行に乗ったというわけではなくて、「走る」という行為がどこか「書く」という行為と似ているところがあるため、プロとして軌道に乗りだした作家がテーマとして据えるのにちょうど良いのではないかと思う。私自身は「走る」ことも「書く」こともできないので、想像だけれども。
 ところは読み始めると、いきなり主人公が「あの世」に行っちゃったりして、帯にあるように「カラフル」みたいなちょっとふしぎな設定の青春ものなのかな、と思えてくる。しかも主人公は最初自転車に乗っているから、もしかすると競輪ものなのか、と途中までは疑っていた。ところが、結局、主人公がフルマラソンに挑戦するという、迷走したけれども第一印象のとおりの物語に落ち着いた。
 「いつかパラソルの下で」のときも思ったけれど、森絵都は感動ものに「笑い」を持ち込むのがうまい。この作品も家族との絆や生きる力の回復など、感動できるテーマなんだけど、特に後半は随所に笑いのポイントがあって、最後は泣きながら笑ったりしてしまった。肝心の走る場面の緊張感は、佐藤多佳子「一瞬の風になれ」や三浦しをん「風が強く吹いている」に軍配が上がるかな、と思うけど、登場人物の破天荒さはこの作品も負けてはいない。特に真知栄子のキャラだちは異常。

「あの人は妖怪だ。物の怪だ。異形のものだ。少なくともまっとうな人間じゃない」