読了本2010・文芸書

ゴーストハント1旧校舎怪談

読者のことを本気で考えるなら、旧版を再版して、新作を書くのが一番だと思うのだけど、くやしいことにリライト版も大変読み応えがありました…。

ロマンティック時間SF傑作選 時の娘

タイムトラベルものとは相性が悪いんですが、短編なら大丈夫。オチはいまいちよくわからなかったけど、「むかしをいまに」「時の娘」「インキーに詫びる」などの技巧的な作品が面白かったです。特に「むかしをいまに」は、ビデオテープの巻き戻しがそのまま…

卵をめぐる祖父の戦争

id:teatreeさんのおすすめ。。早川ポケットミステリをずいぶん久しぶりに読みましたが、あまりの黄色に最初目がちかちかしました。翻訳ものが苦手なので、一気読みとはいかず、ちょうど作中時間と同じくらいの時間がかかってしまいました 邦題が、「卵」とい…

小暮壮物語

小暮壮という古いアパートの住人をめぐる連作短編集。今回のテーマは「恋愛」? と思ってたら、「Feel Love」というサイト(雑誌?)に掲載されていたものらしい。作家さんの中には、長く書いていくとジャンル小説的な部分が抜け落ちて、人間の心情を掘り下げ…

ふたりの距離の概算

より古典部>が好きです。小鳩くんの自意識より、ホータローの自意識の方が共感と好感が持てるから。今回も「他人に興味が持てない」と言いつつ、微に入り細を穿って大日向さんとの過去の出来事を思い出していくホータローの自意識ににやにやしっぱなしでした…

獣の奏者外伝 刹那

『獣の奏者』の王獣編を読み終わった後は、クライマックスでばっさりと物語世界から放り出されてあっけにとられましたが、この著者が、この結末を選んだというなら、がっつり受け入れてやるぜ! と自分を納得させていました。それから、思いもかけぬ続編が出…

雪姫 遠野おしらさま迷宮

ですます調でないほうがよかったんじゃなかろうか。ヒロインが、べたっとした独りよがりな感じがして乗りきれませんでした。とりあえず、遠野のモチーフを盛りこめるだけ盛り込んだので全体に統一感がなくてバラバラな印象も受けます。

星と輝き花と咲き

「元祖アイドル」女義太夫のスター竹本綾乃介の半生をつづった伝記物語。 才能の塊みたいな芸一筋の綾乃介が、あれよあれよと大スターに駆け上がっていく様は爽快です。ステージママお勝と、敏腕マネージャー近久に支えられて、ほとんど挫折知らずで凛凛と咲…

竜が最後に帰る場所

風を放つ 迷走のオルネラ 夜行の冬 鸚鵡幻想曲 ゴロンド 期待にたがわず、また、別な側面を…でも恒川光太郎以外の何者でもない作品を見せてくれました。 今回は連作短編ではなくて、五編それぞれ毛色が全く違います。「夜行の冬」は『風の古道』みたいな、現…

天国旅行

「森の奥」「遺言」「初盆の客」「君は夜」「炎」「星屑ドライブ」「SINK」 「心中」をテーマにした短編集ですが、普通の意味での心中事件はひとつもありません。『あやつられ文楽鑑賞』で苦手だと言っていた「心中もの」に作家として向き合ったのでしょ…

鏡の偽乙女 薄紅雪花紋様

「墓場の傘」「鏡の偽乙女」「畸談みれいじゃ」「壺中の稲妻」「夜の夢こそまこと」 時代は大正。主人公は画家を目指す偉丈夫。のちに風波(ふうわ)という画号を与えられる彼は、雪華という風変わりな友人と出会ってから不可思議な出来事に遭遇するようにな…

RDG3 レッドデータガール 夏休みの過ごしかた

この人たち何やってんの…? という疑問がちょっとずつ解けてきて面白くなってきました。泉水子もしっかりしてきたし。現代日本で陰陽師や山伏が活動し、神々が降臨するというとんでも設定ですが、主人公の浮世離れした感覚が両者をうまく橋渡ししているなー…

今朝の雪 みおつくし料理帖

澪が自分の想いを自覚して、受け入れるようになるまでの内面に力点が置かれているせいか、これまでのシリーズと比べると、おだやかな印象を受けました。嵐の前の静けさ的な…。 そんな中でも、清右衛門の発破には燃え上がった! 小松原がスペシャルゲスト的な…

どろんころんど

「記憶」とは、「存在」とは、「自己」とは何か、という哲学的な問いを発するのに、アンドロイドという設定がぴったりマッチしています。穏やかな終末世界を、商品解説のための少女型アンドロイド、アリスと、アリスを忠実に守るレプリカメ万年1号、ヒトの…

ぼくの名はチェット

ハードボイルドっぽいけど、チェット(犬)の一人称で語られるせいで、なんとなくほのぼの。 普通のミステリーって、著者が必要な情報をわざと読者に伏せていてアンフェアだよな〜という気持ちをどうしても持ってしまうのだけれど、犬視点だから、そういう消…

魔所 イタコ千歳のあやかし事件帖2

「魔所」「これはこの世のことならず」「白い虫」「馬市にて」「エピローグ逢魔が時」 ライトノベルっぽいけれど、ラノベというにはちょっと地味、という変に気になる表紙です。でも、一般書の平台にあるとすごく目立つから、これはこれで。 弘前の近郊を舞…

善人長屋

「善人長屋」とうわさされる「いい人」ばかりが住んでいる長屋。しかし住人は全員裏の仕事を持っていた…。そこに、転がり込んできた真人間の加助がもちこむ他人の困りごとを、裏稼業で鳴らした腕をつかって解決してやるというお話。 一つ一つの事件は、血を…

アナザー修学旅行

さまざまな事情で修学旅行に行けない中学3年生の少年少女の「もうひとつの」修学旅行。修学旅行でクラスメート達がいなくなった教室で、3日間あまり親しくない人たちと過ごさなくてはいけない緊張感とか、微妙な心の距離とかが、丁寧に…しかしあまり痛々し…

うさぎ幻化行

著者は、人の心の機微を温かく描いた作品で人気があるので、そういった先入観で読み始めましたが、…あれ? なんかちがう。義妹を「うさぎ」って呼ぶ兄って、ちょっと変じゃないかな。そしてメッセージを伝えるのに、加工した「音」を使うという遠回しな方法…

箪笥のなか

同じく「野性時代」7月号第二特集「男子禁制!?女子のためのファノベ特集」のブックガイドより。 今住んでいる部屋は狭いので、箪笥は絶対置かないぞ、と心に決めているのですが、モティーフとしては好きなんですよね。半村良の傑作短編「箪笥」や、話の全体…

動物農場

最近、ふたりの人物(彼らはお互いに面識がない)から、それぞれに「ジョージ・オーウェルの『動物農場』を読んで、あまりに今の日本社会に似ていてぞっとした」、「『1984年』の世界が、人ごとじゃなくなったって最近ひしひしと感じる」と聞かされたので、…

三島屋変調百物語事続 あんじゅう

2巻目でまだ9話! これが百話続いたらすごいなあ、と思いますが、そうなるとおちかがお嫁にいけないか。 「逃げ水」「暗獣」は、もののけと人間との暖かかったり、切なかったりする交流を描いたもの。「藪から千本」「吠える仏」は、人の心の闇から生まれ…

怪談実話系4

緑金書房午睡譚

「眼鏡を外したら(若しくは前髪を上げたら)超絶美形」ルールがいつ発動するかと、気が気ではありませんでしたが、ぎりっぎりで回避されたようで一安心しました。

嵐が丘(上)(下)

面白すぎて、一気に読んでしまいました。古典がこんなに読みやすくていいのでしょうか。 キミたち、思ったことをそのまま口に出し過ぎ! もう少し空気を読んで発言を控えようよ! と何度突っ込んだことか。でも、なんとなく、だんだんと清々しい気分になって…

四畳半神話大系

(注)アニメ「四畳半神話大系」の最終回を見逃してやや錯乱気味。 森見登美彦氏のひねくれ者の次男は、あまりにもお兄さんに似すぎてやしないかい、といういわれのある先入観でもって、長らく敬遠していたのですが、アニメの最終回を見逃したショックを紛ら…

ながすぎる蛇のアンソロジー

巳年なので。

ペンギン・ハイウェイ

京都も大学生も出てこない、森見登美彦の新境地。 「ぼくはまだ小学校の四年生だが、もう大人に負けないほどいろいろなことを知っている。」という主人公のアオヤマ君と、友達のウチダ君、チェスの強いハマモトさん、腕力少年のスズキ君という顔ぶれと、彼ら…

家族トランプ

何のとりえもない女の子が、白馬に乗った王子様に見いだされて、幸せをつかむという、見事な王道物語。王子様は、才色兼備の女上司で、お城は、東京下町にある小さな食堂ですが…。うーん、いいお話なんだろうけど、なんかもやもやするなあ。 たぶん、ヒロイ…

パスタマシーンの幽霊

第1話「海石(いくり)」から、川上弘美さんお得意の、不思議な生き物が出てくるファンタジックな短編集かと思いましたが、そのあとは若い女性が主人公の意外と現実的なお話でした。しかし、川上弘美らしく、どこか浮世離れした雰囲気で、なんとも気持ちのいい…