読了本2010・文芸書

抜け参り薬草旅

厠の怪 便所怪談競作集

予想を覆して、明るいジェントルゴーストストーリーを書く人がもう少しいればよかった。一つ一つの作品で描かれる陰惨さは、面白いんだけど、続けて読むと食傷してしまう。編者もそう思って、「縁切り厠」を最後に持って来たんだろうなー。

もののけ本所深川事件帖 オサキ江戸へ

大森望の解説はもう信じないぞー。確かに解説をよく読むと、作品そのものを褒めてる文章は少ないんだよね…。好きな先行作品が並べてあったので、つい騙されてしまった。 ええと、文章が、設定集を読まされているみたいで、小説を読んだ気持ちになれませんで…

闘技場

星ねずみ みどりの星へ 反抗 事件はなかった 闘技場 回答 ノック 人形芝居 狂った星座 任務完了 おそるべき坊や ユーディーの原理 不死鳥への手紙 終 坂田靖子・波津彬子・橋本多佳子の漫画で名前だけは知っていたフレドリック・ブラウン。シニカルだけど、…

龍之介怪奇譚

芥川龍之介の周辺で、彼が自作に描いたのと同様の事件が起こる、という筋書きだけど、元ネタの作品と、起こる事件が似過ぎていて、ひねりが足りないような、物足りなさを感じました。

第七官界彷徨

文字組みって大事だなあ、と思った。ちくま文庫『尾崎翠集成』で苦心したのがウソみたいにするする読めた。桜庭一樹的世界だな、と思うのは逆転しているのだけれど、これからのたいていの読者は、尾崎翠からじゃなくて、尾崎翠を愛し、影響を受けた現代の作…

燃えるスカートの少女

堀江敏幸氏の解説が、この短編集の読後感を丁寧にすくいとっている。こういう奇妙な、としか言いようのない「感じ」を、なんとか説明しよう、伝えようとして、言葉を駆使できる人を尊敬する。あと、訳者の日本語の選び方も、とてもうまいんじゃないかと思う…

水魑の如き沈むもの

今回は、水魑様やボウモンなどの人外のものより、恐ろしい「化け物」の印象が強烈過ぎました。あれはほとんど人間じゃないよ。

南の子どもが夜いくところ

南の子どもが夜いくところ 紫焔樹の島 十字路のピンクの廟 雲の眠る海 蛸漁師 まどろみのティユルさん 夜の果樹園 あまりに独特の作風でデビューすると、その後どういう作品を書いていくか、難しいと思います。しかし、恒川光太郎さんは、デビュー作の鮮烈な…

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

リックとイジドアのダブル主人公に思えた。レイチェルとプリスとか、ヒキガエルとクモとか、対応する箇所がいくつかあるから。他にもマーサーとバスター・フレンドリー、ルーバー・ラフトとフィル・レッシュなど、「人間」と「アンドロイド」という対立する…

あなたの人生の物語

バビロンの塔 理解 ゼロで割る あなたの人生の物語 七十二文字 人類科学の進化 地獄とは神の不在なり 顔の美醜について−ドキュメンタリー 4、5年前に読んで、ぼんやりとあらすじを覚えていたのは、「バビロンの塔」と「あなたの人生の物語」。再読して、そ…

みおつくし料理帖 想い雲

この娘はとんでもない、と種市が思ったところで、某有名長編少女漫画の名台詞「…恐ろしい子!」というフレーズが頭をよぎったんだけど、「とろとろ茶碗蒸し」では、芳さんがまるっきり月影先生(某をつける意味ない)だった。料理人なら「チャングム」だけど…

みおつくし料理帖 花散らしの雨

みおつくし料理帖 八朔の雪

出世花

「えん」は、芯が強くてけなげな典型的な逆境のヒロインだなあ。あんまり「いい子」なもんで、最初は、正直やや引いて見てしまってたんだけど、たびたび桜花堂の桜最中をおいしそうに頬張るのを見ていたら、その辺にいる普通の娘さんと同じ愛嬌が出てきた。…

怪談実話系3

ドイツ幻想小説傑作選

桃色トワイライト

解説が「ねにもつタイプ」の岸本佐和子。三浦しをんの解説や装画の人選は、なぜにいつもこう絶妙なのか。

愛はさだめ、さだめは死

学生時代に読んで、全く歯が立たなかった記憶があるジェームズ・ティプトリー・Jr再挑戦。私に、SFはある程度の基礎知識がなければ、小説として読むことすらできないという懼れを植え付けた作家であります。 …今回も、ワタシ程度の人生経験では、ティプトリ…

天地明察

あの冲方丁の時代小説。囲碁をもって徳川家に仕える碁打ち衆である安井算哲(渋川春海)が、800年続いてきた中国伝来の暦を変えるという一大事業をなしとげる道程を描いたもので、SF作家らしい、人間の理知と科学への賛歌にあふれた作品だった。 ライトノベ…

密室の如き籠るもの

首切の如き裂くもの 迷家の如き動くもの 隙魔の如き覗くもの 密室の如き籠るもの 今までで一番面白かった。「首切」は都市伝説、「迷家」は昔話、「隙魔」は学校の怪談という、私の偏愛するジャンルの雰囲気が濃厚だったせいだろう。路地の怪談は怖かったよ…

蔵書まるごと消失事件 移動図書館貸出記録1

う〜ん、ちょっと期待外れかなー。登場人物から、あんまり本に対する愛情や執着が感じられないのと、主人公は名探偵というより迷探偵の方で、あまり謎解きの面白さがなかったのと。あと、私は、「ホーム・アローン」的ギャグが苦手であります…。 せっかく出…

魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 くさびらの道 饗応 真朱の街 ブルーグラス 小鳥の墓 どの作品も、壮大なSF設定のほんの一部という感じで、すごく贅沢なものを読んだ気がする。あとがきによれば、表題作は、同設定で別の作品が書かれる予定だというし、「小鳥の墓」はすでに発…

シャーロック・ホームズ最後の解決

この作品に「シャーロック・ホームズ」という名前の人物は登場しない。彼はただ「老人」とだけ紹介される。物語は、表紙に描かれているように、ヒナギクの花を持ち、オウムを肩に乗せた青白い顔の少年が、線路で老人と出会う場面から物語は始まる。登場人物…

ARRIVAL

画面に広がる不思議な街の風景に、言葉を失った。そして、「言葉を失う」というのは、この絵本には、ぴったりの反応かもしれないな、と思う。なぜかというと、この本は、文字なし絵本だからだ。漫画のような小さなカットのページの間に、見開きページが挟ま…

扉守

「帰去来の井戸」「天の音、地の声」「扉守」「桜絵師」「写想家」「旅の編み人」「ピアニシシモより小さな祈り」 温かな青色の表紙に手招きされるように手に取った。 飲んだら必ず故郷へ戻ってこられるという「帰去来の井戸」と、井戸がある店を守る女性を…

2001年宇宙の旅

「後世に残る作品を作ろうぜ」と言って、本当に作っちゃったキューブリックとクラークに一番驚く。 クラークのすごいところは、SFや科学知識のない人間にも読みやすく、分かりやすい言葉で、最高級のSFマインドを伝えているところ。それにしても、宇宙飛…

骸の爪

心霊探偵路線でいくのかと思ったら、今回はミステリ寄りだったためか、論理展開のこじつけっぽいところが目立ってしまっていた。 亮平少年はもう出てこないのかな。

山魔の如き嗤うもの

「事件をなんとなく解決している」というフレーズが、ツボにはまって出てくるたびにくすくす笑ってしまった。どちらかというと、「なんとなく解決できてない」んじゃ…? と突っ込みながら。推理が二転三転するので、最終的に出た結論も、ほんとにホントに正し…

背の眼

「文章の巧さは七難隠す」 「難」については、ホラーサスペンス大賞選考委員が指摘しているとおり。肝心の謎解きも、ちょっと牽強付会過ぎだし。にもかかわらず、退屈せずに読みとおせたのは、読みやすい文章のせいとしか思えない。 読んでるときに思い浮かべ…