獣の奏者外伝 刹那

獣の奏者 外伝 刹那
 『獣の奏者』の王獣編を読み終わった後は、クライマックスでばっさりと物語世界から放り出されてあっけにとられましたが、この著者が、この結末を選んだというなら、がっつり受け入れてやるぜ! と自分を納得させていました。それから、思いもかけぬ続編が出、その完結編の読了後に浮かんだのは「完璧」という文字でした。この物語は、これ以上もこれ以下もないという深い深い充足感でした。
 嬉しいことに、著者も同じ思いで本編を書いたらしいということがこの本のあとがきで伺えます。読者が一番気をもんだであろうエリンとイアルの恋を、外伝という形で書いた理由に納得。読者もすごく読みたかったけれど、上橋菜穂子さんだって、これを書きたくてたまらなかったんだろうなって思わせられる濃密な外伝でした。
 エリンとイアルの恋人(?)時代を描いた「刹那」のあとに、エサル師の若い頃の思い出「秘め事」をもってきた構成の上手さにまたしても脱帽です。いや、上橋さんの本を読むと帽子がいくつあっても足りません。人間の女の生き方として、子どもを産む/産まないということは大きな岐路のひとつだと思いますが、それをエリンとエサル師という二人の女性に託して描いたのかなあと思います。生き物として、異性と触れ合い、子孫を残すという営みを、どんなことがあっても諦めたくないと叫ぶエリンと、熱病のような恋に身を焼きながら、自分と周囲の社会性を守るために「子を成す」ことを諦めようとするエサル師は、何もかもが対照的でありながら、なんて似たもの師弟なんだと嘆息してしまいました。
 この著者なので、あまあまらぶらぶな話になるわけがなくて、すっごく重い物語なのに、公共の場で読むのは大変危険なにやにや本でした。
 あと、これは図書館で借りて読んだのですが、表紙がものすごくシンプルな茶色になっていて愕然としました。違うんだ、あれは帯じゃなくて寸足らずのカバーなんだよ! 体脂肪計タニタの社員食堂 ~500kcalのまんぷく定食~も、帯(カバーだってば)を外すとシンプルすぎる外見になっちゃうんですよね。ああいう図書館泣かせの造本が流行ってるなあ。