うさぎ幻化行

うさぎ幻化行 (創元クライム・クラブ)
 著者は、人の心の機微を温かく描いた作品で人気があるので、そういった先入観で読み始めましたが、…あれ? なんかちがう。義妹を「うさぎ」って呼ぶ兄って、ちょっと変じゃないかな。そしてメッセージを伝えるのに、加工した「音」を使うという遠回しな方法を使う人って、かなり変じゃないかな。恋人を、義妹とおなじあだ名で呼ぶ男って、絶対おかしいよ! と物語のキーパーソンである最上圭一の偏執的な人柄が明らかになってくるにつれて、これって怖い話かも…と思うようになりました。
主人公のリツ子も、義兄圭一へのこだわりといい、すれ違った人への異常な関心の持ち方といい、なんだかやっぱり怖い人かも…。それがはっきりしたのが、岩崎鈴音の登場です。明朗快活な彼の登場によって、圭一をめぐる人間の心のいびつさが浮き彫りになりました。
圭一も、「うさぎ」も、すごく不自然な人物造型で、現実的にも小説的にもリアリティがない。彼らが紡ぐ物語は、まるで生気のない現実味のない不安定なものです。だからこそ、タイトルが「幻化」行なのかなーと思いました。