南の子どもが夜いくところ

南の子供が夜いくところ
南の子どもが夜いくところ 紫焔樹の島 十字路のピンクの廟 雲の眠る海 蛸漁師 まどろみのティユルさん 夜の果樹園
あまりに独特の作風でデビューすると、その後どういう作品を書いていくか、難しいと思います。しかし、恒川光太郎さんは、デビュー作の鮮烈な印象を損なうことなく、一般読者にも受け入れられるような普遍的な作品を書ける作家さんになったんだなあ、と感無量になりました。あの世や過去が不意に姿を現す南の島で起きる不思議な事件を扱った連作短編集でした。南国独特の飄々としたユーモアを漂わせる一方、悪霊や人の悪意が不気味ににじみ出ているなんとも奇妙な後味です。あちらこちらに顔を出す悪霊のヤニューがいい味を出している「蛸漁師」が、いや〜な気持ちになるんだけど、あとあとまで尾を引いてなぜか一番のお気に入りです。血なまぐさくもほのぼのしている「まどろみのティユルさん」もいいなあ。