ARRIVAL

The Arrival
 画面に広がる不思議な街の風景に、言葉を失った。そして、「言葉を失う」というのは、この絵本には、ぴったりの反応かもしれないな、と思う。なぜかというと、この本は、文字なし絵本だからだ。漫画のような小さなカットのページの間に、見開きページが挟まる構成で、セピア色の無声映画のように、シーンだけが続いていく。とても「静か」な物語…。
 読み手は、絵を見ながらそれぞれの「物語」を紡いでいくんだと思う。なかなか「素人」に物語を作ることは難しいけれど、こうして「手掛かり」を与えられて「お話作り」のまねごとができるというのは、すてきな楽しみ方だ。私は、平凡な男のありふれた物語を創造したけれど、でも、丁寧に絵を読んでいって、最後のシーンにたどり着いた時には、心の底からよかったと思えた。
 ストーリーは平凡でも、舞台となる世界には、見たことのない幻想的な景色が広がっている。奇妙な建物や、へんてこな文字、不思議なオブジェたちが、これでもか、と目を驚かせてくれる。中でもひきつけられるのが、可愛らしくもちょっと不気味な生き物たち。猫のように野性的でもありながら、人間のそばに寄り添って暮らしているこれらの生き物たちが、人生の悲しみをそこここで感じさせるお話に、ユーモアとぬくもりを与えていた。