扉守

扉守(とびらもり)
「帰去来の井戸」「天の音、地の声」「扉守」「桜絵師」「写想家」「旅の編み人」「ピアニシシモより小さな祈り」
 温かな青色の表紙に手招きされるように手に取った。
 飲んだら必ず故郷へ戻ってこられるという「帰去来の井戸」と、井戸がある店を守る女性を中心とした連作短編集なのかと思いきや、舞台は街そのもので、狂言回しは飄々とした禿坊主という意外性(笑)。他にも主役を張れそうなキャラクターが多く登場する中で、住職がここまで重要な役になるとは思ってなかった。ひょこひょこ出てきて、一見何をしているわけでもないようなこのおじいさんが、読了してしばらくたった今でも、一番印象に残っている。
 作品として忘れがたいのは「写想家」。登場する人外らしきモノの中でも、扉守」と「写想家」に出てくるそれは、人の心の暗い部分が引き寄せる、どこか怖いモノたちだ。しかも、はっきりと人に害を及ぼす「扉守」の妖怪より、一見人当たりのよさそうな「写想家」さんの方が、もっと怖いものに思える。彼は、二人の女性を救ったと言えるんだけど、単純にハッピーエンドと喜べない厭なものが胸につかえる感じがして…。
 他にも、ほっと心温まったり、少しさびしかったり、胸が締め付けられるような感動を覚えたりと、いろいろな読後感を味わえる粒よりの短編集だった。
装画を担当している丹地陽子さんは、イメージにぴったりの色使いで、作品をすごく大切にした絵を描かれる方だなあ、と思う。