読了本2009・文芸書

ゴーストストーリー傑作選

「老いた子守り女の話」「冷たい抱擁」「ヴォクスホール通りの古家」「祈り」「藤の大樹」「手紙」「ルエラ・ミラー」「呼び鈴」 英米女流作家による怪奇小説のアンソロジー。同じコンセプトの『淑やかな悪夢』に比べると、タイトルと表紙があまりに地味です…

漱石ホラー傑作選

宵山万華鏡

題名に恥じず、くる、くる、と回す度に見える景色が少しずつ色を変えていく、万華鏡のような6編からなる連作短編集でした。ラストは総括、という感じでストンと落ちましたが、好みからいうともう少し派手に盛り上がってもよかったと思います。 短編として一…

十七歳の湯夫人

表紙の絵や裏表紙のあらすじにある「吸血鬼カーミラ」で期待すると、表題作は少々物足りなく感じるかも。妖艶なというよりは、凛とした女導師が魔物と対峙する淡泊な妖怪譚なので、題名やあおりとの齟齬が大きいのはもったいないような気がします。収録作の…

神を見た犬

「天地創造」「コロンブレ」「アインシュタインとの約束」「戦の歌」「七階」「聖人たち」「グランドホテルの廊下」「神を見た犬」「風船」「護送大隊襲撃」「呪われた背広」「一九九〇年の教訓」「秘密兵器」「小さな暴君」「天国からの脱落」「わずらわし…

怪談実話系2

森山東「お茶屋怪談」と、中山市朗「怪談BAR2」に出てきた話は、去年それぞれライブで聞いた話でした。「怪談の宴」で、森山さんが井戸の話をし始めたときに豪雨になったのは事実ですが、その時は「雨降ってきたな」としか思ってなかったのが、こうして活字…

猫とともに去りぬ

海に住む少女

彼岸の人々や物言わぬ獣たちの視点から、海上に浮かぶ幻の町を、イエス生誕の納屋を、雲に浮かぶ死者たちの都市を描いた幻想短編小説集。やや訳が甘めに感じましたが、上品なユーモアをたたえた、でもどこか寂しい雰囲気が堪能できました。

図書館の女王を探して

妻を亡くして失意の底にある男が受けた奇妙な依頼。絵のモデルになって欲しいという女性が切り出したのは、あなたには自分の夫が霊となって憑依しているという信じられない話だった…。「守護霊」とか「霊能者」という単語が、何のてらいもなく出てくるのでと…

おこう紅絵暦

帰省していて、読む本がなくなったので、久々に実家にあった時代小説を手に取りました。続き物だったらしく、次々と事件が起きては解決することのくり返しで、登場人物に感情移入するまもなく終わってしまったという感じです。

ドリアン・グレイの肖像

肖像画の方が年を取っていくという現象に、もっと劇的な理由があるのかと思っていました(悪魔と取引するとか…)が、何げなくつぶやいた言葉が現実となってしまっただけだったとは。叶うとは思っても見なかった望みが実現した最初の驚きと、己の偽善を突きつけ…

ラピスラズリ

「銅版」「閑日」「竈の秋」「トビアス」「青金石」 「冬眠者」っていえば、どうしたって「ムーミン」だろ! ということで、山尾悠子の作品世界にはまったくそぐわない初代「たのしいムーミン一家」のオープニングがエンドレスリピートを始めて、ものすごく…

赤い月、廃駅の上に

「夢の国行き列車」「密林の奥へ」「テツの百物語」「貴婦人にハンカチを」「黒い車掌」「海原にて」「シグナルの宵」「最果ての鉄橋」「赤い月、廃駅の上に」「途中下車」 『怪談列島ニッポン』の郷愁を誘うジェントル・ゴーストストーリーで、怪奇短編もい…

綺譚集

いろいろな文体で書かれた実験的な幻想小説集。化け物視点の「夜のジャミラ」「玄い森の底から」が、暗闇を掻き分けて現世をのぞき見しているような奇妙な愉しさがあったので、すき。「美しい話だ」と始まる「約束」よりも、この作品集では珍しく淡々とした…

f植物園の巣穴

読み始めてじきに、作中世界が現実か、そうでないのか分からなくなりました。『家守綺譚』では、いくら河童や幽霊など不思議なものが出てきても、主人公が覚醒していることははっきりしていましたが、このお話では、主人公が夢を見ているのか、昏睡状態か、…

雨にもまけず粗茶一服

主人公のダメッぷりが徹底しているのがいいなあ。これが中途半端だと途中で腹を立てて投げ出したかもしれないけれど、托鉢に及んで、もーしょうがないな、この子は、と彼の何もかもを受け入れるあきらめがつきました。と思ったら、そのあたりから、本人がな…

ぼくは落ち着きがない

そのうち片岡君との出会いがあったり、文化祭に向けて部員が団結したりするのだろうと思っていたら、そういう盛り上がりポイントはことごとくさらりと流されてしまい、最後まで何事もなかったことに、読了語しばらく呆然としてしまいました。 片岡君と甘酸っ…

小川未明集 幽霊船

まるで蝋燭がふっと消えるみたいに、異界に飲み込まれていく登場人物たち。不思議なことなどまったく起こっていない作品にも、尋常でない妖気が漂っています。のどかな、美しい田舎の風景を描いていても、どこか陰惨な狂気を宿したような筆致は、読み進むに…

神去なあなあ日常

高校を卒業して、プー太郎になる気満々だった平野勇気は、担任と母親に勝手に就職先を決められ、三重県の山奥、神去村に放り込まれた。働く場所は、12,000ヘクタールの山の中。訳の分からないまま林業に従事することになった勇気の1年を描く。三浦しをんのシ…

猫を抱いて象と泳ぐ

小川洋子らしい、控えめな狂気の横溢した少し怖いお話でした。心温まる「マスター」との思い出にも、穏やかなエチュードでの晩年にも、「死」が濃い影を落としていて胸が苦しくなります。残酷な犠牲のはらわれた海底のチェスクラブでの彼が、もっとも「生き…

恋文の技術

作者が同名で登場すると、どうにも純粋に作品を楽しみづらいなあ、と思っていたのですが、最後の方にはちょっとした仕掛けがあって、筆を執って手紙を書くって楽しいだろうな、という気持ちになりました。妹さんが言うように、手紙をやりとりしてくれる友人…

おそろし 三島屋変調百物語事始

百物語というので、短いお話がもっとたくさん語られるのかと期待していましたが、収められているのは4つだけでした。しかもおちかの話は、嫌で恐ろしくはありますが、怪談とは言い難い。一つの語りが長い分、人の心の動きが丁寧に描かれるので読み応えはあ…

わくらば追慕情

「澱みに光るもの」「黄昏の少年」「冬には冬の花」「夕凪に祈った日」「昔、ずっと昔」 物や人の記憶を読み取る力のある「姉さま」との思い出を、妹が綴るという形式の連作短編集。今回は、鈴音と同じ力を持ちながら、他人の過去を暴くことをなんとも思わな…

スノーフレーク

大崎梢が全力投球でロマンティックラブストーリーを書くとこうなる! という感じで芸風の広さに感心しました。主人公の真乃が、超正統派の少女漫画(少女小説)のヒロインで、読んでいて大変イラッとします。ちょっ、知り合ったばかりの男の車に乗るなーっ、女…

怪談熱

「怪談熱」「ブラックアウト」「花冷えの儀式」「ドラキュラの家」「夏の蟲」「再会」「猿島」「最後の礼拝」「憑霊」 みごとに後味の悪い話ばかりでしたが、食傷せずに読み切りました。一番イヤな「猿島」が書き下ろしと言うところに、著者の底意地の悪さを…

怪談列島ニッポン 書き下ろし諸国奇談競作集

恒川光太郎「弥勒節」(沖縄)、長島槇子「聖婚の海」(愛媛)、水沫流人「層」(広島)、有栖川有栖「清水坂」(大阪)、雀野日名子「きたぐに母子歌」(福井)、黒史郎「山北飢談」(神奈川)、加門七海「日本橋観光」(東京)、勝山海百合「熊のほうがお…

プリンセス・トヨトミ

京都奈良の次は大阪で、万城目三都物語と呼びたくなる流れです。次は神戸か…? でも万城目にコジャレた街は合わな…失礼。 壮大なホラ話でした。走り出しがやや冗長で、なかなか本筋に入らない展開は、イラチの大阪人にはつらいかもしれません(笑)。でも、会…

草祭

「けものはら」「屋根猩猩」「くさのゆめがたり」「天化の宿」「朝の朧町」 『夜市』『雷の季節の終わりに』は、舞台が異界そのものでしたが、本作は舞台を現実世界において、そこから異界に迷い込むというある意味ホラーの王道を行っています。『秋の牢獄』…

たまさか人形堂物語

「毀す理由」「恋は恋」「村上迷想」「最終公演」「ガブ」「スリーピング・ビューティー」 こういう展開だと、たいてい元の鞘に収まるものではありますが、最後のギリギリまでハラハラしました。最終話は、澪の鬱屈に引きずられて、人形が本筋にからんでこな…

名探偵クマグスの冒険

teatreeさんの感想で面白そうだー、と図書館で予約してたら、psycheNさんに先を越されて、ますます読みたくなって待ちかねていました。さすがお二人がオススメしているだけあって、大満足です。虚実入り交じって、不勉強な私にはどこまでが史実でどこからが…