プリンセス・トヨトミ

プリンセス・トヨトミ
 京都奈良の次は大阪で、万城目三都物語と呼びたくなる流れです。次は神戸か…? でも万城目にコジャレた街は合わな…失礼。
 壮大なホラ話でした。走り出しがやや冗長で、なかなか本筋に入らない展開は、イラチの大阪人にはつらいかもしれません(笑)。でも、会計検査院の仕事ぶりや、舞台となる大阪城近辺の下町の様子などを丁寧に描写したことで、後半の荒唐無稽な虚構に奇妙な現実感が与えられていたんじゃないかなー、と個人的には思います。
 物語は、茶子ちゃんが蜂須賀に足蹴りを決めたところから俄然面白くなってきます。もう一人のヒロイン(?)大輔も、普段頼りなくて弱々しい描写が多い分、その芯の強さやとっさの行動力が光っていました。最後に旭にかけられた言葉が、がんばった大輔へのなによりのご褒美で、よかったねえ大輔! と心から祝福しました。女でありながら男性社会である中央官僚となった旭と、男でありながらセーラー服を身にまとう大輔、性差を超えようと闘うこの二人だけが、OJOを支える秘密を両面から知ることができたというのがよかったです。

 オニが闘ったり、シカが口をきいたりする今までの作品とちがって、あくまで現実世界な分、ノリについて行けないとラストでえー、となってしまいそうです。OJOの実態が明らかになるほどに、会計検査院の松平調査官だけでなく、読者にとっても、その存在意義が疑わしく思える作りになっていて、非常に危ういと思いながら読んでいました。松平調査官がきちんと指摘するあたり、著者は意図的にやってるんでしょうが。
 正直、女であり大阪の人間ではない私には、OJOは、松平調査官のいうとおり「くだらない」ものとしか思えませんでした。でも、黒い携帯電話からの通信を受けた瞬間、OJO支持に傾いたんですよね。その時に、「中央の言いなりになってたまるか」っていう「心」が、OJOを作り上げ、支えてきたものの一部だと納得させられてしまった。父から息子へと受け継がれてきた「約束」も、同じく目に見えない「心」なんだよな…。著者は、わざとOJOを徹底的に「実体のない」「中身のない」ものとして描くことで、目に見えずに受け継がれていくかけがえのない「もの」の存在意義を、読者に問いかけているのかもしれません。