わくらば追慕情

わくらば追慕抄
「澱みに光るもの」「黄昏の少年」「冬には冬の花」「夕凪に祈った日」「昔、ずっと昔」
 物や人の記憶を読み取る力のある「姉さま」との思い出を、妹が綴るという形式の連作短編集。今回は、鈴音と同じ力を持ちながら、他人の過去を暴くことをなんとも思わない吹雪という女性が登場します。この吹雪が、神秘的で圧倒的な力を持つ悪女として描かれていて、とても魅力的です。一方で、人が過去を忘れたり隠したりすることを許さない頑なさからは、そうなるだけの過去がありそうな感じもします。吹雪と鈴音の因縁や、姉妹の父親のことが明らかにされなかったので、さらに続編が出そうな感じ。
 しかし、続きはいったいどうなるのとハラハラするよりも、姉思いで明朗な性格の妹の、優しい昔語りに耳を傾ける楽しみのほうがこの作品では大きいです。「人間の善性」といういささか照れくさいテーマを、戦後まもない昭和時代のセピア色にくるんで、そっと差し出している感じがします。ただ優しいだけ、美しいだけではなくて、どうしようもない犯罪者や、大きな時代の流れに巻き込まれた人の哀しみにも言及しながら、それでも、という登場人物たちのしなやかな強さに、素直に共感できるのでした。