赤い月、廃駅の上に

赤い月、廃駅の上に (幽BOOKS)

「夢の国行き列車」「密林の奥へ」「テツの百物語」「貴婦人にハンカチを」「黒い車掌」「海原にて」「シグナルの宵」「最果ての鉄橋」「赤い月、廃駅の上に」「途中下車」
 『怪談列島ニッポン』の郷愁を誘うジェントル・ゴーストストーリーで、怪奇短編もいけるんだーと認識を新たにした有栖川有栖幻想小説集。ミステリー作家の怪談というと、理が勝ちすぎて興趣に欠けるものが多い中、ちゃんとこの世ならぬ恐怖を描いていてとても好感が持てます。しかも、「鉄道」というしばりを設けた上で、舞台や雰囲気を様々に変えて飽きさせないのはさすがベテランの貫禄ですね。
 船長の披露する海の奇談に引き込まれてつい「鉄道怪談」ということを忘れそうになった「海原にて」で出現した奇跡の光景は圧巻でした。人を食ったような「最果ての鉄橋」、密林を走る鉄道という濃密な幻視空間を出現させた「密林の奥へ」もおもしろかった。表題作のように直球のホラーテイストの作品にさえ、独特の端正さのようなものがあって、かなり好きなタイプの作品集でした。