おそろし 三島屋変調百物語事始

おそろし 三島屋変調百物語事始
 百物語というので、短いお話がもっとたくさん語られるのかと期待していましたが、収められているのは4つだけでした。しかもおちかの話は、嫌で恐ろしくはありますが、怪談とは言い難い。一つの語りが長い分、人の心の動きが丁寧に描かれるので読み応えはありますし、「曼珠沙華」「凶宅」「魔鏡」で起こる怪異は、どれも十分怖いお話でした。特に「凶宅」の化け物屋敷のじわじわと畳みかけられるような不気味さは秀逸です。
 それだけに、最終話ですべてのお話に片をつけてしまったことで、せっかくの話がそのためのパーツのように思えてしまったのが残念でした。家守りが出てきて指摘したように、お吉さんと宗助さんのことは、釈然とできませんでしたし…。結局、市太郎とお彩がお吉に、鉄五郎が宗助に、謝るシーンはありませんでした。鉄五郎は「背中で我が娘と息子を庇い、嫁には謝るように頭を垂れて」いるだけで、宗助に対してはなんのリアクションもないのが怖い。「誰もあんたが憎くてしたことじゃない」というなら、市太郎は本当に、なんの感情もなく、まるで人形でもあるかのようにお吉さんをお彩の身代わりに立てたわけで、さらに怖い。そんな釈然としない思いを、家守のような人物に代弁させるところが、宮部さんの一筋縄ではいかないストーリーテリングの妙だなと思った次第です。
 家守は、ちょっと百鬼夜行抄の鬼灯を思わせるところがありました。