猫を抱いて象と泳ぐ

猫を抱いて象と泳ぐ
 小川洋子らしい、控えめな狂気の横溢した少し怖いお話でした。心温まる「マスター」との思い出にも、穏やかなエチュードでの晩年にも、「死」が濃い影を落としていて胸が苦しくなります。残酷な犠牲のはらわれた海底のチェスクラブでの彼が、もっとも「生きて」いたようにも思えます。ミイラが側にいてくれたからかなあ。そう思うと、最後にロープウェイでミイラとすれ違ってしまったのは象徴的です。
 リトル・アリョーヒンのチェスシーンは、どれもそれぞれに美しく激しいものでしたが、祖父母と弟に見守られながら老婆令嬢と指したチェスが最も感動的でした。