076空とぶベッドと魔法のほうき

空とぶベッドと魔法のほうき (岩波少年文庫)
 むかし青い鳥文庫で読みかけて挫折し、また小人たちシリーズも挫折したこともあって、同作者の本作はいったんは敬遠したのですが、今回はすんなり読めました。たぶん、プライスさんの魅力が分かるようになったからだと思います。この人、普段はイギリス中産階級の理想的な「淑女」なのですが、ふとした瞬間に魔女らしさが垣間見えるシーンが冒頭にあって、そこですーっと物語に引き込まれました。メアリー・ポピンズのようにアクが強いわけではなくて、どちらかというと少し間の抜けたところのある温和な女性だと思っていたのが、ケアリイに正体をばらされそうになったときに見せる豹変ぶり―劇的に外見や振る舞いが変わるわけではなくて、場の雰囲気を厳かで不気味なものに変えてしまう迫力は、とても印象に残りました。魔女としての不気味さを出すのはここだけなのですが、プライスさんの二面性や人間的な深みが端的に表れていて、一瞬で彼女と作品を好きになったシーンでした。
 さて、読んでいて一番驚いたのが、魔法のベッドで南の島に行った時の現地住民の描写です。「…ケアリイをつかまえたのは、ケアリイがこれまで想像していたとおりの男でした。くちびるがあつく、髪の毛はちりちりで、ぺちゃんこの鼻には、横に骨がとおしてありました。」 今どきちょっとお目にかかれないような「ステレオタイプ」の「未開人」像で、おもわずマンガの絵が目に浮かびました。原作が出版されたのは1945年。本当に当時はこんなイメージが定着していたんですねえ。ところで、よくアフリカの人々の描写に差別的な表現があるとして取り上げられる「ドリトル先生」では、姿形や立場ともかく、主人公の友人として描かれています。本作では、彼らは徹底徹尾未開の地の野蛮人で悪者です。この描き方の差はなかなか興味深いので、評論などあったら一度読んでみたいと思います。

それはひとを安心させる鼻、まさにプライスさんの鼻そのものでした。