日本における外国昔話の受容と変容

グリムをはじめとする外国の昔話が、どういった過程を経て日本の昔話として語られるようになったのかを、ハナシを具体的に比較することで解き明かそうとした論文集。
怪談好きとしては、著者の母校に伝わる「聖心の祝日にまつわる怪談」が面白かった。著者の 母校はカトリック系の学校で、寄宿舎があり、そこでは様々な怪談が語られていたという。代表的なものは、聖心の祝日の夜、布団からはみ出して寝ていると、転落事故で亡くなった車椅子のシスターが毛布をかけ直してくれる、というもの。バージョン違いで、創立者である聖女ソフィアであったり、ヨゼフであったり、聖母マリアであったりするらしい。「寄宿生はシスター、聖人たちに総出で布団を掛け直してもらっていることになる」という著者の突っ込みに思わず笑ってしまった。お嬢さん方、どんだけ寝相が悪いんだ(笑)。この学校では、聖心の祝日には、最高学年が各学年の教室を飾り付け、手製のカードを配るという行事があり、早朝から準備をする。以前はそのために集まった上級生が、ベッドの下から下級生の足を引っ張ったり、ベッドを廊下に出すなどのいたずらをしていたそうな。著者は、そういった「祝日を楽しむための行動が、怪談につなが」っていたと読み解く。ヨーロッパの言い伝えが、日本の学校行事と融合し、あらたな怪談を生み出すというのは、とても魅力的なエピソードではないだろうか。
もちろん、「なんにも仙人」「ブレーメンの音楽隊」「金の魚」「死神(寿命のろうそく)」などの有名な昔話を題材にしたケースも紹介されていて(というより、そちらがメインだ)、明治期の翻訳や、巌谷小波による口演童話(現代のストーリーテリングみたいなものか)が、日本の昔話に及ぼした影響の大きさが改めて実感できた。