144キツネのライネケ

きつねのライネケ (岩波少年文庫)
 小学校高学年頃、「きつねのさいばん」というタイトルで読んだときには、悪いキツネが英雄になってしまう結末に腹が立って、理不尽ですごく読後感が悪かった記憶があるのですが、今回はそんなことはありませんでした。ライオン王も狼のイーゼグリムも熊のブラウンも、欲が深くて知恵が浅く、ちっとも「いい人」ではないからです。そういう愚かな人々が、ライネケに騙されてひどい目に遭うのが、いっそ爽快と思うようになった私の20年間にいったい何があったのか(苦笑)。
内田百間はこの物語を訳したときに、なんの教訓も含まれていないから、安心してお読み下さいと年少の読者に語りかけたそうですが、結構正義感の強い子どもは、やっぱりこの話を嫌がるんじゃないかな。訳者あとがきにも、挿絵を添えた銅版画家は子どものライネケを読んで悔しくてたまらなかったと書いてありますし。たぶん、この話は子ども時代と、大人になってから、2回読むといい作品なんじゃないかなあ。著者がそれを狙って書いてあるとしたら、その人間観察の深さに脱帽するしかありません。


そんなとき、良心がうずくこともあるさ。こんなことをしてちゃあ、どんな最期をむかえることかと心配にもなる。だがねえ、みんあそうしてやしないかい? そうやって生きのびていやしないかい?