143ぼく、デイヴィッド

ぼく、デイヴィッド (岩波少年文庫)
 物心ついたときから、山の中で父親とふたりきりで暮らしていた10歳の少年デイヴィッドは、父の急死により誰ひとり知り合いのいない世間に取り残される。浮世離れした少年に、デイヴィッドを拾ったホリー夫妻はとまどうが、やがて自由で純真なデイヴィッドによって、日々の暮らしの楽しみや美しいものへの感性を呼び覚まされていく。
 はじめ1/3を読むのがちょっと大変でした。デイヴィッドの父親は、有名な音楽家で、芸術家にありがちなように俗世間を蔑んでいるところがあって、そこが少々受け入れにくいというか…。自分の理想を具現化するために、息子を世間から隔絶し、高度な教育と芸術、とりわけてヴァイオリンのみを教えるという教育方針には、疑問を感じてしまいます。そのおかげで、デイヴィッドは、父の死後、お金の使い方どころか、価値も知らず、自分の本名もわからないまま、いきなり世間に放り出されて苦労していました。拾ってくれたホリー夫妻がいい人だったから良かったけれど、最初に出会ったのが悪い大人だったら、デイヴィッドは悲惨なことになった可能性が高いんですよね。
 もやもやとはしつつも、後半デイヴィッドとホリー夫妻との距離が徐々に縮まっていくところや、もつれた恋愛の糸を我知らず解いていくところなんかは、王道のパターンですが、面白く読めました。デイヴィッドが大病にかかるのは、ポリアンナと同じですね。同作者らしく、読後感はよく似ています。
 

人生のオーケストラには、すべての楽器が必要なんだからって、ぼくはまだ小さな子どもだけど、それでもやっぱり楽器の一つなんだし、ぼくが役目を果たさなかったら、せっかくのハーモニーが台なしになるって。