142まぼろしの白馬

まぼろしの白馬 (岩波少年文庫)
 両親を亡くした13歳の少女マリアが引き取られた屋敷には、古い言い伝えがありました。昔、敵の家から嫁いできた月姫と呼ばれる女性が、代々現れ、歴史をくり返すというのです。月姫とされる女性が過去の過ちを償うとき、敵同士であるメリーウェザー家と黒い男たちが和解できるというのですが、マリアは伝説をよみがえらせ、過ちを修復することができるのでしょうかー。
 本来なら少女の夢想をたしなめる役割の牧師や従僕たちが、曰くありげな館の案内役として、少女を導いていくので、最初は少しとまどいました。こういう有無を言わせぬロマンティックな雰囲気は、もとなおこさんの少女漫画に通じるものがあると思います。気持ちをさくっと切りかえて、次々と起こるふしぎな符丁をそのまま受け入れてしまえば、最期まで抵抗なく読めました。
 とっても器用な家僕のマーマディークは、陽気な土の精のようで面白いキャラクターでした。甘い夢物語にピリッとメリハリをつけていますが、女性嫌悪なのはご愛敬でしょうか。動物たちも、物語にユーモラスな花を添えています。黄褐色の巨大な犬に似た生き物ロルフ、賢い猫のザカライア、いばりんぼうの子犬ウィキンズ、マリアに忠実な子馬ペリウィンクル、愛らしいウサギのシリーナ。動物たちは、マリアの友だちであり、ときにはナイトとして常にそばにいてともに物語を牽引していました。それにしてもロルフの正体には、思わずつっこまずにはいられませんでしたが…。