141飛ぶ教室

飛ぶ教室 (岩波少年文庫)
 きらきらしてます。4歳で父親に捨てられた男の子、貧しくてクリスマスにうちに帰ることもできない男の子、自分の臆病が嫌でたまらないのに勇気の出せない男の子、人生のつらさをそれぞれに抱えてはいるけれども、それでも彼らのいるこの空間と時間は、本当に輝いています。
 どの男の子も(かっこつけテーオドールも)、個性的で魅力的なんですが、一番印象に残ったのは、弱虫ウーリでした。貴族のお坊ちゃんで、ケンカのときにはすぐに逃げ出してしまう臆病者で、そんな自分が情けなくていつもメソメソしている子。それがまったく嫌みじゃないのが、ケストナーのうまいところだと思います。ウーリに「可愛い」という形容詞は似合わなんですよね…いつも、強くなりたい、と誰よりも強く願っているウーリは、れっきとしたかっこいい「男の子」に思えました。それに、弱いウーリは、自分と同じように弱い立場の人を思いやれる優しい子で、上級生に脅かされて泣いている下級生をなぐさめたりもできる。うん、やっぱりかっこういいなあ。だいたい、マティアスみたいなタイプの子がウーリと仲がいいのは、ウーリのそういう美点を、認めているからだと思います。ウーリのような子は、どちらかというといじめられやすいと思うので、うん、正直にいうと、初登場でマティアスがウーリにお金を貸してもらうシーンは、カツアゲに見えたんだ…。飛び降り事件のあと、マティアスがウーリを見る目が変わっていく、微妙な関係の変化がとても好きです。
 あとは、冒頭で衝撃的な過去が明らかにされているジョニーは、本編ではあまり目立たないけれどもつねに傷ついている人のそばにいて見守っていてくれるイメージがあります。彼自身も脆いところはあるだろうに、ジョニーがいると安心できるんですよね。それだけに、マルティンが一番つらい気持ちを、ジョニーに言えないときは、読んでるこちらも本当につらかったです。「泣くこと厳禁! 泣くこと厳禁!」
 ギムナジウムの生徒が、クリスマスに「飛ぶ教室」という劇を発表するという額縁の中に、少年たちの多彩な感情がいきいきと描き出されている、名画のような作品でした。


人生ときたら、まったくいやになるほどでっかいグローブをはめているからね!