133かるいお姫さま

かるいお姫さま (岩波少年文庫 (133))
 「かるいお姫さま」「昼の少年と夜の少女」
 児童書ながら、実に官能的な物語でした。マクドナルドは「お姫さまとゴブリンの物語」の作者ですが、あちらのシリーズとは少し趣が違って、登場人物の性格が昔話のように類型化されているのと、乾いたユーモアに富んでいるので、ずいぶん明るい印象を受けます。
こういう童話風の物語の場合、主役はお姫さまであることが多いですが、「かるいお姫さま」では、王子さまがなかなかの個性を発揮しています。バカ王子と見せかけて、実は結構したたかなところがあり、詩人でたらしで、やっぱりヘタレなところに大変笑わせてもらいました。完璧な配偶者を求めて旅に出て、重さのないお姫さまに一目惚れしちゃううっかりさ加減がたまりません。それにしても、お姫さまと王子さまのやりとりの端々に、たとえようもない色気がにじんでいて、によによしてしまうんですが、これ。
シチュエーション的にたまらないのが「昼の少年と夜の少女」です。魔女によって、昼しか知らないように育てられた光り輝くような金髪の少年と、夜の暗闇の中で育てられた黒髪の美少女って、ライトノベルも真っ青な設定だと思うんですが。またこのフォトジェンて少年が、底の浅いおバカさんで、最初ニュクテリスを見捨てて行ったときには、これで二人が結ばれるのは納得いかーん、と真剣に腹が立ちました。その後改心はするんですが、やっぱりフォトジェンにニュクテリスはもったいないと思います。夜の黒髪と、晴れ渡った空の碧眼をもつ少女ニュクテリスが、実に魅力的に描かれていて、彼女が少しずつ外界を知っていく過程には、胸がドキドキしました。マクドナルドの他の作品と比べると知名度は低いですが、忘れがたい印象を残す作品でした。

この王子さまが、そんなに完全な相手を求める権利があるほど完全な人だったのかと聞かれても、私にはなんとも言えません。