132浦上の旅人たち

浦上の旅人たち (岩波少年文庫(132))
 明治初期、禁教を解かれたはずの長崎隠れキリシタンの受難を描いた歴史小説でした。外圧によってあからさまな弾圧はなくなったものの、隠匿される形でキリシタンへの迫害は続いており、その一つが信徒たちを故郷から引き離し、全国の藩に流罪して改教をせまった『浦上四番崩れ』という大弾圧だったそうです。その流刑の日々を、信徒たちは「旅」と称したとか。
 岡山に流された21歳のたみ、流罪の信徒たちに紛れ込んだストリートチルドレンの千吉、行方不明になっていたたみの父親の市蔵、それぞれの視点から、信仰のあり方、弱者の苦しみ、人間の善と悪を、具体的なエピソードを積み重ねることで浮き彫りにしていきます。淡々として地味な内容ですが、大きな歴史の流れの中、居場所を転々とさせられる彼らが、次にどうなるのか目が離せず引き込まれて最後まで読み切ってしまいました。
明治初期から書き起こされた物語は、千吉を通して、現代につながっていきます。たみたち一家が無事に浦上に帰り着いたところで閉じてもよかった物語を、千吉の被爆死と、千吉が残した地上のハライソまで書き継いだ意味が最初は分りませんでした。しかし、ゆっくりとエピローグをたどっていく過程で、弾圧も戦争も、祈りも嘆きも、過去の遺物ではなく、すべてが現代に、わたしたちに繋がっているのだと…実感したときに作者の意図が腑に落ちました。