倒立する塔の殺人

倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
 極上の小麦粉とバターで焼き上げたクッキーみたいだな、と思いました。他の皆川博子作品に比べると、毒性が低くて、少女たちの悲喜こもごもの心情が切ない。太平洋戦争中から戦後という死が身近だった時代設定を十分に生かして、生と死の間、大人と子どもの間にゆれる危うさと、したたかさを浮き彫りにしています。異分子のイブこと阿部欣子の人物造形が、皆川博子のイメージを裏切る現実的でしっかりした少女で、この子の存在が作品の印象を明るいものにしているところがすばらしかった。YAはやはり希望とか前向きな印象で終わるのがいいなと思うのです。