津波てんでんこ 近代日本の津波史

津波てんでんこ―近代日本の津波史

昔からあった言葉なのかと思っていたけど、「津波てんでんこ」という言葉そのものは1990年、岩手県田老町で開催された「第一回全国沿岸市町村津波サミット」で著者が語った体験談から生まれた言葉なんですね。「津波が来たら親子かわまずてんでんこに逃げろ」という教えは昔からあったそうで、著者のお父さんはその言葉通り、昭和の津波の時に子どもを置いて一人で一目散に逃げたんだそうです。
この話を知ってもひどいなあと思わないのは、私の父も「てんでんこ」の人だから。パニック映画で主人公が恋人や子どもを助けに行くシーンを見て「こいつはバカだ!」と慷概しながら、娘たちに災害に遭ったらまず自分が助かるよう逃げるべし、と教えてくれました。

今回の震災のあまりの大きさ、凄まじさに、こんなの助かりようがないと無力感を覚えていましたが、本書を読んで、認識が改まりました。できることはまだある、どんな巨大な災害が来るとしても犠牲者を減らす努力の余地はあるんだと。
岩手県姉吉地区は「此処より下に家を建てるな」という津波記念碑の教えを守って全戸無事、釜石市の小中学生は日頃の防災訓練の成果でほぼ全員助かったというニュースを見ると、被災を後世に伝えること、防災教育がどれだけの命を救うか思い知らされます。