フランケンシュタイン

フランケンシュタイン (光文社古典新訳文庫)
 モダンホラーの祖であるというだけの、カビ臭い古典かと思っていたら、痛い目にあいます。精密に組み立てられた構成、練り込まれた人物造型、正真正銘の恐怖を味わえる一級のエンターテイメントでした。
 解説でフランケンシュタインと怪物以外の人物描写は型にはまって理想化されていると書かれていますが、主役の二人の葛藤を際立たせるために、あえてそうしたのではないかと思いました。それほど、フランケンシュタインの身勝手さ、怪物の孤独、そして両者に共通する「弱さ」が、説得力を持って読者に迫ってきて、読後やや呆然としてしまいました。
 怪物は、その醜さゆえに誰からも愛情を得られず、拒絶されるのですが、それじゃあ、周囲の人間が悪いと責められるのかっていうと…。恐怖を喚起するほどの「醜さ」を目の当たりにして、フェリックス達と同じ態度を取らないと、いったい誰が断言できるでしょうか。怪物を孤独と悪に追い込む当事者に立たされる恐ろしさは、怪物の犯す救い難い悪行に匹敵する恐怖でした。
 登場人物は皆、善人で、幸福をめざしているのに、誰ひとり幸せになれない、ということがこの作品の一番恐ろしいところだと思います。