杉村顕道怪談全集彩雨亭鬼談

 まず、娘さんによる解説を読んで、作者が大好きになりました。自分の奥さんのことを「美しい婆」だから「ビバ」と呼んで、毎日キスする明治生まれって、なにその萌爺! しかも、医者の家に生まれた剣道五段柔道四段の明治男の書いたもの、と思って身構えて本文を読み始めたら、これがまた、めちゃくちゃ読みやすい文章で、ますます親しみがわきます。
 どの話も、味わい深くて面白かったけれど、なかでも『怪談十五夜』収録の「空家の怪」が素晴らしい。同じ話が、『箱根から来た男』にも「白萩の家」として収録されているけれども、怖さの点では「空家」に軍配が上がります。雑巾がけをしているのが男である方が、意外性とそこから立ち上る物語性があって、いいと思いますね。
 明治生まれの人が書いているだけに、江戸怪談の雰囲気も濃厚で、非常に贅沢な気分になれる一冊でした。復刻してくれた東北の出版社荒蝦夷さんに感謝。