完全なる証明

完全なる証明
 副題は「100万ドルを拒否した天才数学者」。
NHK番組「100年の難問はなぜ解けたのか 〜天才数学者 失踪の謎〜」を見て以来、気になっていた「事件」でした。数学の本なんて読めるかどうか不安でしたが、心配していたとっつきの悪さはまったくなく、ぐいぐいと読み進められました。
なんといっても、本書が、数学の問題を取り扱うのではなく、ペレルマンという人物に焦点を当てていたのが大きいです。世紀の難問だというポアンカレ予想を証明したグレゴリー・ペレルマンは、現在マスコミはおろか、恩師との接触も断ってしまっていて、著者は一度も本人に会わずに、この半生記を書きあげたといいます。彼がどのような人生を歩んできたのかを、周囲の人の証言から浮かび上がらせるという、ある種の探偵小説的な面白さがありました。
そしてその半生は、旧ソ連ユダヤ人として生きるということの想像を絶する困難さを目の当たりにすることでもありました。ナチスドイツのような残虐な行為はないけれど、「生きる」自由を著しく制限されて暮さなければならない人々がいた(いる)ということに粛然とします。
あと、こういう偉人の伝記って、その生き方を尊敬したり、目標にしたりすることがあるのかもしれないけれど、ペレルマンはあまりにも規格外すぎて、ちっとも人生の参考にはならないところが潔いです(笑)。