ぼくたちが聖書について知りたかったこと

ぼくたちが聖書について知りたかったこと
 かなり高度な内容なので、ところどころ話題についていけないことも…。そこは池澤夏樹さんなので、ついていけなくても読めるようには書いてあります。
聖書の話のはずなのに、「ユダヤ人」についてかなり重点が置かれていました。つまり、聖書はユダヤ人的なものの見方、考え方を抜きにしては語れないということなんでしょうね。「ユダヤ人て何だろう」というのはずーっとわからなくて、この本を読んでもまだよくわからないけれど、「わからない」「わからない」と思いながら、わかりたくてこうして少しずつ触れていくしかないんだろうなあ。直接ユダヤ人としゃべる機会なんて、そうそうないだろうし。
面白かったのが「ヘブライ語には過去形がない」というところ。つまり「神は言った」という言い方はなくて「神は言う」でしかない。こういう言葉を使っているとどうなるかというと、一度神様の言ったことは絶対に取り消せなくて、今この時も神は私たちに言っていることになる。どれだけ時代が変わっても、戒律を変えずに守り続けるというのは、そういう世界観から来てるんだ、というのは軽く世界がひっくり返るような驚きでした。過去を水に流せずに、何百年も前の出来事に起因する紛争が今でも続いているのも、過去が彼らにとっては常に現在であるから、というのにはなるほど〜と思います。そして、それは悪いことばかりではなくて、過去も現在も未来も矛盾を抱えたすべての事象をまるごと同時並列させてしまえる世界観でもあるというのは、感動的でした。言語の時制によってあり方そのものが異なってしまうというのは、こないだ読んだテッド・チャンあなたの人生の物語」に通じるところがあるなあ。あれも、聖書の影響の濃い作品だったし。
他にも聖書には入れられなかった「雅歌」という文章には、とてもエロティックなものがあるなど、深い聖書の世界を垣間見せてくれる好著でした。