文楽公演「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)竹の間の段・御殿の段」「お夏清十郎寿連理の松(おなつせいじゅうろうことぶきれんりのまつ)港町の段」「日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)渡し場の段」 国立文楽劇場

 関西に来て初めて知ったのですが、1月10日前後は「十日戎」のお祭りで、笹に縁起物を下げた人々が巷に溢れます。大阪では、大国町にある「今宮戎」が有名らしいのですが、縁起物を売る女性が北浜講や新地講と染め抜かれたはっぴを着ているのを見ると、いわゆる「花街」と縁の深い祭なような気がします。実際、芸者さんの乗った花駕籠が、戎橋筋を華やかに練り歩いていました。後から知ったのですが、文楽人形を乗せた花駕籠もあったとか。見たかったなあ!
で、先日読了したばかりの『東京おぼえ帳』によると、花柳界と演芸界は縁が深いとのことで、それを裏付けるかのように、今日の国立文楽劇場には、今宮戎から福娘がやってきて、おふるまいをしていました。他にも、人間国宝の御三方が、鏡開きをしていたり、舞台にはしめ縄が飾られていたり、幕間には撒き手拭があったりして、お正月ムードいっぱいでした。

伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)竹の間の段・御殿の段
 「はらがへってもひもじゅうない」
全編爆睡。雀と犬が出てきて、女の人が茶室で米を炊いていたような…。

お夏清十郎寿連理の松(おなつせいじゅうろうことぶきれんりのまつ)港町の段
 ひどいはなしでした。あんまり腹が立ったので、眠気がどっか吹き飛んでしまった…。
芸者と駆け落ちした主人の息子を助けるために、妹同然に育った女の子と結婚してその子を売っぱらって、お金を作ろうってどういう料簡!? 清十郎と佐治兵衛が、お梅との結婚を急いだ理由が分かったときには、主人公たちのあまりの身勝手さに劇場内がどよめいたよ。「十人並みにも優れたお梅、乳守へ売ってと思いついても義理の子ゆえにそうはならず、祝言さしたら夫の為にとそちに売らす工みもすかたん」。てめえらの血は何色だ! 肝心のお梅が結婚を断って、実母の元に戻って一安心と思ったら、お梅ちゃん、事情を察して自分で身売りしちゃってるし! 待ってー、相手は身を尽くす価値のない人でなしよ!
 結局は、清十郎の主(あるじ)である徳左衛門が、息子の駆け落ち相手である芸者と、お梅を身請けしてきて大団円となるのですが、息子を芸者と結婚させるのはまあ好しとしよう。しかし、清十郎に惚れている自分の娘を清十郎に嫁がせて、お梅は妾にってどういうこっちゃねん。パンフレットの解説にも書かれてあったけど、札束で面を撲るようなやり口に、またしても場内騒然。
 このお話、十日戎の祭礼が背景にあり、最後は舞台と観客席が一体となって手打ちをして祝祭モードで終わるはずなのですが、結末に全然納得のできない場内からは、ほとんど拍手が上がらず、あまり盛り上がらずに終わったのでした。いや、終了後、お梅を除く登場人物たちのあまりの身勝手さにある意味大いに盛り上がったかな。

日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)渡し場の段
 だれも死なないハッピーエンドなのに、もやっとしたものが残る後味の悪い前の段に比べて、男に捨てられた女が恨みのあまり蛇体に変ずるこちらは、舞台の大スペクタクルとも相まって、スカッとしましたね。まあ、女ストーカーの元祖みたいな清姫ですが、他人事と思えば、いけいけーとり殺せーと気楽なもんです。席の関係でカブが見られなかったのが残念。