君と一緒に生きよう

君と一緒に生きよう
 毎日新聞で連載された森絵都による犬と人をめぐるドキュメンタリー・エッセイ。
 むかむかむかむかむか。
 読んでいる間中、ずっと怒ってました。書かれているのは、棄てられた犬の命をつないでいこうとする人々の懸命な姿で、そのこと自体には掛け値なしの尊敬の念を覚えます。それでも、彼らがそこまでしなければいけない原因に常に思いを馳せずにはいられませんでした。
 鉛を飲んだような胸の中で、ずっと「なんで、飼うの?」という言葉がぐるぐると回っています。 飼われている生き物には飼い主しかいないのに、生殺与奪の権利を持つ命を、何故そうも簡単に捨てられるのか。「簡単じゃない、棄てる方だってつらい」というのでしょうか。でも棄てた人間は、飢えて死ぬことも、殺されることもありませんが、棄てられた生き物は、高確率で悲惨な死を迎えるしかない。それを想像してなお、「つらいけれども棄てるしかないの」と言うのでしょうか。
 誤解のないよう言い添えておきますが、この本は、委棄犬の悲惨な現状を告発するものではなくて、過酷な状況を生き延びて安住の地を見つけた犬と、彼らを愛し、守ろうとする人々を、時にユーモラスに、時にあたたかい筆致で描いた読みやすいドキュメントです。でも、取材の中で、著者の中に生まれた問題意識が通底音として、読むものに強く問いかけてきます。「この社会は果たして健全だろうか。私たちは子供に「命を大切にしましょう」と言えるのか。」