トレマリスの歌術師3第十の力

トレマリスの歌術師〈3〉第十の力
 3部作という形はまとまりがいいと思うのですが、本作に限っては、3部目で物語が走りすぎたような気がしました。次から次へとカルウェンに試練が降りかかり、出来事の余韻に浸る暇がなかったことを残念に思います。でも、トレマリスという世界が、とても魅力的に描かれていて、そこで暮らす様々な力を持つ民も好きになれました。走り過ぎとは書きましたが、一章一章が濃密で、実際の本の厚みよりもページ数の多い物語を読んだ気がしています。ファンタジーを読んだぞー! という深い満足感の得られる物語でした。
 この物語に萩尾望都を起用した人に乾杯!

「第十の力」が文字だったことよりも、この世界に文字がなかったことに驚きました。そういえば、手紙を出すシーンは一度もなかったし、歌術はすべて口づてで教わってた。「文字がない」世界で文字がないということを読者に知らせるのは確かに難しい…。
 世界が癒された夜明け、恋人たちが手に手をとって祝祭の場を離れていくのは、微笑ましいというか何というか…ダロウが手が早いというより、カルウェンが積極的に思えました(笑)。一生触れ合えないと思っていただけに、再び抱きしめることが叶った時、もう待てなかったんだろうなあ。カルウィンがサミスを忘れていない描写があったのも、恋愛ものとしてはなかなかいいと思いました。ハラサーとの兄妹愛もかなり強いものがあるし、ダロウがヤキモチじゃなくて良かった。