046ガンバとカワウソの冒険

ガンバとカワウソの冒険 (岩波少年文庫)
 シジンの恋人ナギサを探しに「四の島」に渡ったガンバと十一匹の仲間たちは、ナギサと共にいたカワウソの生き残りの家族の別天地を求め、「豊かな流れ」を目指す。「四の島」は四国のこと、「豊かな流れ」は四万十川をイメージしています。ちなみに、ガンバたちが乗った船は、神戸・大阪と今治・松山を航行する同名の実在のフェリーのこと。挿絵にも描かれた特徴のある船体は、関西の人間にはなじみ深いものです。
 結末のわからない旅というのは、実生活ではまずできないので、それを疑似体験できるロードムービーという物語形式は大好きです。
 カワウソを助けようとするガンバたちが、絶対的な「正義の味方」ではなくて、自分たちの行いが本当にカワウソのためになるのかと、常に自問しながら旅をするのがとてもいい。「ガンバの冒険」ではちょっと自己中心的なところが鼻についたガンバですが、今回のように悩みながら行動するキャラクターというのは大変好みです。まあ、「ガンバの冒険」が気に入らなかったのは、作者の女性キャラの扱いが気に入らなかったというのもあるんですが、今回はそれも納得がいくように描かれていました。
 初登場シーンで死亡フラグを立てまくっていたキャラ2名のうち、1名がちゃんと生き残ってよかった〜。 キマグレは後で絶対味方になるよね、このツンデレ! と思っていたら、あんのじょうの王道展開でニヤニヤしてしまいました。キマグレとイカサマとのやり取りがたまらんです。前作でも、私はシニカルでちょっとワルっぽいイカサマが一押しキャラだったのですが、本作でもあいもかわらずかっこいいー(ネズミですが)。そしてこういうキャラと絡むやつはたいてい死亡フラグなのですが、やっぱりというかなんというか(泣)。ウキクサの陰影のある描写もよかった。イカサマはたぶんウキクサと似たような過去を持っているから、ウキクサのウソを見破れたんじゃないかと思うんですがそこんとこどうなんですか。集団にはこういう影のあるキャラが不可欠ですね。作者はキャラ立てがとてもうまくて、仲間が十一匹もいるのに、ちゃんと全員の名前と特徴が覚えられるのがすごいです。いつもは足手まといのマンプクがカワモを叱咤激励するとか、それぞれに見せ場がある。
少年の成長あり、滅びゆく者たちの絶望あり、恐ろしい敵との戦いあり、恋人たちのロマンスありとあいかわらず盛りだくさんで濃い内容でした。野犬たちに襲われてあわや! という2部と3部の間で2分冊にしてもよいほどのボリュームですが、一気に読み終えました。

おれは、カッパが見てえんだよ。