151あらしのあと

あらしのあと (岩波少年文庫)
 オルトー一家は子沢山で、芸術家の長男ヤープ、看護師の長女ミープ、しっかり者の次女ルート(8歳)、落ちこぼれの次男ヤン、元気いっぱいの三男ピーター・ピム(6歳)、末娘のアンネ(1歳)にお父さんとお母さんの8人家族です。これに亡命ユダヤ人でほとんど家族同然に暮らしていたヴェルナーが加わります。
 「あらしの前」から6年たち、ナチスの占領から解放されて平和が戻ってきたところから、物語が始まります。生まれたばかりだった末娘のアンネは7歳に、ピーター・ピムやルートは思春期に入っています。そして、家族の中には、もう永久に年をとらなくなった人物もいます。
戦争の傷跡は、家族を失ったという直接的な悲しみもさることながら、人々の心のありようの変化という形で描写されています。なにもやる気がおきないとか、悪いことはすべて戦争のせいにしてしまうとか、他者に対する警戒心など、戦争の前にはなかった重たい気持ちを登場人物の誰もが持っています。
なかでも思春期のピーターとルートの気持ちに焦点が当てられます。戦争中は大人に交じって地下活動をしていたピーターは、平和になって大人扱いされなくなった不満をウサギの密猟という犯罪で紛らわしています。戦争前なら、真面目なルートがそれをいさめる役割だったのでしょうが、ルート自身も、無気力に襲われ苦しんでいました。ピーターにとっては、ルートが関わらなかったことはよかったのだと思います。おかげで自分でゆっくりと考える時間がもてたのですから。
ふたりがそれぞれに抱える戦争の落とした影の部分を、日常の出来事の中に丁寧に織り込んで描写してあり、読み終わると静かに戦争について考えることができる物語でした。

「そして、わたしたちがなにをしようと、それは戦争のせいじゃなくてわたしたちがするからするのです」