150あらしの前

あらしの前 (岩波少年文庫)
 オランダの子どもたちの日常を丁寧に描いていて、読む前とイメージが少し変わりました。「あらし」とはナチスドイツによるオランダ侵略を示しているので、悲惨な戦争ものかと思っていたのですが、直接的な戦火の記述はなく、ほとんどはオルトー一家の温かい家族の生活に筆が費やされています。
ただ、その平和な日常に、ドイツを追われたユダヤ人の少年が居候として入ってきたり、都会に出た長女から不穏なうわさ話を聞かされたりといった戦争の影が落ちてきます。なんというか、戦争が実際に始まる前の雰囲気というのは、本当にこんな感じなのではないかな、と思いました。ほとんどの人は、不安に思っていても、本当に戦争になるとは思っていません。長女のミープや、次男のヤンなど若い人たちのあせりは、経験豊富な大人たちになだめられてしまいます。戦争の実感ができない人々の気持ちも、危機感のない大人たちにもどかしさを感じるミープたちの気持ちも、どちらも分かる気がしました。
 そういう意味では、これはまさしく「戦争」の一面を描いたもので、決して過去の出来事ではなく、今の、これからの文学なのだと思います。

「十足はころばないですべれるさ」とピーター・ピムはいいました。