136とぶ船 上

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)
 ピーターは、町の古道具屋で小さな船の模型を買う。その船は、持ち主を行きたい場所、時代へ連れて行ってくれる魔法の船だった。
 ピーター、ハンフリ、シーラ、サンディの4人兄弟は、魔法の船に乗っていろいろな場所・時代にとびます。で、私が連想したのが「タイムボカンシリーズ」なんですが…タイムボカンに比べると、意外とピーターたちはそんなに色々な場所に行っているわけではないんですね。場所的にはエジプトとイギリスが主で、時代も、古代エジプトと、ノルマン・コンクエストの時代、ロビン・フッドの時代とイギリスの子供たちにとって(たぶん)なじみぶかい時代を取っています。著者はもともと歴史小説を書くだけあって、時代の雰囲気にリアリティがあります。最初、ピーターたちが言葉やその国の習慣が分からなくて、トラブルに巻き込まれる姿を描いているなど、芸が細かい。そして、船の正体を探りに北欧神話の世界にとんで、船の秘密を知る一連の流れがとても自然です。船の秘密を手に入れたピーターたちは、それ以後言語と服装の問題に悩まされることはなくなりますが、それでも彼らが異邦人であることから来る困難は避けられず、読者をハラハラさせるところが、本当にうまい。
 ピーターたちの冒険の中でも、私は北欧神話のシーンがとりわけて好きです。他の冒険と比べて毛色が変わっているだけでなく、物語の中でとても重要な意味を持っています。ピーターはここで、オーディンとある約束を交わします。最後にその約束は果たされるのですが、切なくもあたたかみのある、感動的なラストになっています。私は、子どもの頃は内容になじめず読めなかったのですが、このシーンを味わうことのできる大人になって読めたことを嬉しく思いました。魔法を、ファンタジーを、物語を愛し続ける大人への、作者の優しいメッセージを感じる名シーンでした。
 妹尾ゆふ子さんの読書録の感想がオチをぼかしつつうまくこの作品のいいところを紹介していてよかったです(解説はネタばらしすぎ。あとで読めばよかったと後悔しました)。私も、きょうだいが、船で病気のお母さんに会いに行くシーンは、「となりのトトロ」だ〜と思いました。
ぼくは、ぼくのもっているお金ぜんぶ―と、それより、もうすこしよけいに、はらいました!