123名探偵カッレとスパイ団

名探偵カッレとスパイ団 (岩波少年文庫)
 窃盗、殺人、ときて次のカッレくんの冒険はスパイ団です。
 悪者がちゃんと悪者っぽくて、物語の中の「正義」が揺らがないので、安心して読んでいられます。物語を支える倫理観は揺るがないのですが、その中で生きる人々、なかでも悪党一味のニッケは、誘拐したラスムス坊やに素直な信頼を寄せられ、善と悪の間でぐらぐらとゆれ動きます。どうやらニッケは、貧しい生活に疲れて、この一味に入ったらしいのですが…。一貫して子どもに寄り添って描き出される文章に、そういう大人側の事情をにじませるリンドグレーンの上手さときたら、もうたまりません。
 新キャラのラスムスくんは、不用意におしゃべりをして、たびたびカッレ君たちを窮地に陥れます。本来なら、イライラするキャラクターですが、5歳という年齢設定の前には何も言えません。5歳じゃ仕方ないよねー、ああ、もう可愛いなあ、と思ってしまったら作者の思うツボ。しかし、私は大人なので、5歳児に「秘密」を要求するのが無茶だという事はわかるのですが、小学生はどう思うのかなあ。結構ほんとにいらいらしたりして。そちらのほうが、ラストシーンのラスムスくんの「お手柄」にカタルシスがあるのかもしれません。しかし活躍といっても5歳児の可愛さを最大限利用しただけのような気も…いやいや、これからアンデスやカッレの薫陶を受けて、立派な白バラ騎士団に成長していくんですよね。
解説は、シンガーソングライターの新沢としひこ。