095マリアンヌの夢

マリアンヌの夢 (岩波少年文庫)

マリアンヌの夢 (岩波少年文庫)

 2年前に手術をして、じっとベッドに寝ていなければならなかったことがあります。歩いてはいけなかったのは10日ほどでしたが、本も読めないだるさと時計を見るたびに絶望に駆られるような退屈さに悩まされました。
 何ヶ月も、しかもいつ治るか分からない病気にかかったマリアンヌの心の動きが実に丁寧に描かれていました。子どもの頃に読めば、マリアンヌに完全に同化してしまったと思います。家を見張る不気味な石、ラジオから聞こえる石たちの声、そして家からの緊迫した脱出行を読んでいると、実際に体がこわばってくるほど恐ろしかった。読み終わった直後に満足する、というタイプではなく、淡々と本を閉じた後、何年もたってふと、物語の情景が鮮明によみがえってくるようなお話でした。
 怖いだけではなくて、マリアンヌが特別な鉛筆で絵を描くと夢の中に実際にそれが現れる、ということに気がついて、いろいろと物を書き足していくところはわくわくしました。挿絵の絵がまた本当に子どもが描きそうな絵で。わたしだったら何を書こうかな、と想像してしまいました。
 夢では安全な灯台に脱出し、現実にはマークが健康になって終わると思っていたので、ラストの展開におどろきました。灯台は恐怖を克服したばかりの子どもたちに必要だったけど、いつまでもそこにいてはいけなかった…。そして、「避難所」で十分力を蓄えた子どもたちは、自分たちで旅立っていったのです。旅立ちの手段がヘリコプターで、向かう先が空と海というのも象徴的です。