五月花形歌舞伎「夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)」「蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)」 御園座


ちょっと前に、NHKで「伝統芸能若き獅子たち」って番組をやっていまして、第1回が狂言茂山宗彦、2回目が尺八の藤原道山、3回目が歌舞伎の市川亀治郎、4回目が文楽の吉田蓑次にスポットを当てていました。他の芸能は3人とも顔も売れていて、中堅どころ、と言ったところなのに、文楽の蓑次さんだけがまだ顔の出ない足遣いってところに、文楽の特殊性が見えておもしろかったんですが、この時に見た歌舞伎の市川亀治郎さんの身体表現の美しさに度肝を抜かれて、いっぺん生で見たい、と思い始めていました。

そうしたら、「夏祭浪花鑑」(今年の夏休み文楽特別公演の演目)を、歌舞伎でやるっていうじゃありませんか! しかも、もう一つの演目は、亀治郎さんが早変わりを披露するとか。で、名古屋はちょっと遠いけれど、姫路行くのもあんまり変わらないねってことで、在来線で日帰りしてきました。

 歌舞伎を見るのは初めてだったんですが、「夏祭浪花鑑」が、もとは人形浄瑠璃の演目だったせいか、なんとなく文楽っぽい、つまり、人間が人形みたいに見えるなあ、というのが率直な感想です。
そう見える理由はなんだろう、と考えてみると、まず第1に、役者さんの身体性が常人離れしていることが挙げられると思います。あの人たち、ふつーの人間じゃ、あり得ない動きをするんですよ! 歌舞伎独特の誇張された独特の動きもそうだし、「動かない」ときもすごい。人形浄瑠璃から写しただけあって、シーンのいくつかに、脇役が全く動かないシーン、てのがあるんですね。スポットライトの当たる役者の後ろで、観客に背を向けて、文字通り「背景」と化すんですが、その時の役者さんは、本当にピクリとも動かない。とにかく、動いていても動かなくても、グラグラしないんです。これが人間離れして見える原因の一つと思われます。
 第2に、私の見た場所が、3900円の3等席、3階の13列3席という、かなり後ろの方だったから、じゃないのかな。この場所からだと、見える役者さんを指でつまんで測ったところ、2センチメートルくらいしかない。文楽は、結構前の方の席で見ることが多いので、いつも見ている文楽の人形よりもさらに小さいんです。視力はそんなに悪くないけど、それでも、役者さんの表情まではわからない。
 文楽と、歌舞伎の最大の違いは、演じているのが人形か人間かってことで、三浦しをんが『あやつられ文楽鑑賞』で、その違いについての分析をしています。でも、あれだけ距離があると、生々しい人間の肉体を感じられないんだなあ。たぶん、表情が分かるくらいまで近づけば、もっとはっきりと、あ、これは生きている人間なんだ、ってことが分かるんだと思うけど。

 それにしても、今から文楽の「夏祭浪花鑑」を見るのが楽しみで仕方がありません。演出とか、どんなふうに違うのかなあ。それまでに、今日見たものを覚えていられるか、やや不安が残るんですが(^^;。

 それと、御園座は、すごくいい劇場で、ニコニコでした。ロビーでは、鬼まんじゅうやアイス最中や、芋きんつばのように、幕間の時間に手軽につまめるおやつがいっぱい売っていて、食事処も何軒もあります。食いしん坊バンザイ的に、また来たいな、と思わせられる充実ぶり。国立文楽劇場は、売店一か所、レストラン1か所、茶店1か所なのにねえ、負けとるで、食い倒れの大阪!
 演目ももちろん面白かったです。長くなるので、感想はまたあとで。