新春公演「二人禿(ににんかむろ)」「彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)杉坂墓所の段・毛谷村六助住家の段」「壺坂観音霊験記(つぼさかかんのんれいげんき)土佐町松原の段・沢市内より山の段」

二人禿(ににんかむろ)
 景事(けいごと)はたいてい寝てしまうんですが、これは全然寝ないで楽しめました! まず、幕が開くと、まさに目の覚めるような晴れやかな春の景色。廓の大門前の満開の桜の下です。そこへ二人の禿が登場。この禿、女形には珍しく足があります。着物の裾から緋色の蹴出しがちらちらと見え、さらにそこから白い足がのぞくのは、可憐でもあり色っぽくもありますね、にやにや。「禿かむろとたくさんさうに、云ふておくれな、エエ憂きの廓」と嘆きつつも、羽根つき、鞠つき、手遊びに駒遊び、凧揚げなど正月の遊びをして楽しく遊びます。禿たちの初々しい仕草が微笑ましく、弾けるような華やかさがあふれていました。見ているこちらの気持ちまで晴々とするような楽しい舞台でした。

彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)杉坂墓所の段・毛谷村六助住家の段
 「壺坂」に観音様が出てくるというので、そちらを目当てに来たのですが、まさかの伏兵でこれがものすごく面白かったです。ます、ヒーローである六助が、文楽の立役にしては珍しい、現代人にも共感できる好青年。主家を立てても、女子供を犠牲にはしないところがいいですよ。老母には孝行を尽くし、弱気を助け強きを挫き、子どもには優しく、女性には弱く、さらに剣の腕前は超一流。山賊に襲われて泣く子供をあやしながら、悪人どもをばったばたと足蹴りで倒していくなんて、かっこよすぎる。
 六助の主家である吉岡家の人々は、ものすごくマイペースなひとたちで、なんか喋るたびに場内爆笑。幼い弥三松ですら、六助を誘拐犯と早とちりした叔母のお園が短刀ふりまわしてるのに、「あっおばちゃんだ! わあい、おじちゃん(六助のこと)、太鼓たたいて遊んでよう」などという空気の読まなさっぷり。お前、さっきは太鼓は嫌じゃとか言ってたくせに。ただ、刃物は怖くない弥三松君も、六助が自分の許嫁と知った途端に、いきなり女房気取りで家事を始めたお園ちゃんには恐れおののいて別間に逃げちゃうんだよなー。お園ちゃん、事情を全然説明しないで即行動なもんだから、あまりの豹変ぶりに六助も怖がってたよ…。吉岡家の人たちは、総じて人の言うこときかないし、肝心なところを説明しないんだよな…。
 面白いとばかり言ってますが、お笑いの演目ではなくて敵討のお話です。六助が亡き母を弔う隣で、孤児になった弥三郎が石を積んで遊ぶシーンなどは、親を亡くしたふたりの悲しみが伝わってきて、しんみりしました。弥三郎が、親より早く死ぬという不孝をした子どもが課せられる石積みをして遊ぶという逆転の演出がすごかったです。

壺坂観音霊験記(つぼさかかんのんれいげんき)土佐町松原の段・沢市内より山の段
 時代ものでも世話ものでも、とにかく人が死んじゃう文楽ですが、これは珍しくハッピーエンドです。目が不自由なことで妻に迷惑をかけていると悲観した座頭の沢市が、壺坂山で身投げをしてしまい、悲しんだ妻のお里も後を追うのですが、観音様の霊験によって、生き返り、沢市の目も見えるようになったという西国三十三ヵ所を主題にした霊験譚。観音様は、娘の頭に衣装を着せたもので、期待していたのとはちょっと違いました(←仏像みたいな文楽人形があるのかと思ってた)。沢市が身投げするまでちょっとうとうとして、肝心の身投げシーンを見逃して、しまったーとなりました。人形がどうやって身投げするのか見たかったのに…。その後のお里を見ると、人形遣いさんがポーンと下に放り投げてて、びっくりしましたが。


 とにかく「彦山」が面白かったです。六助は、気は優しくて力持ちという理想的なヒーローだし、お園ちゃんも腕っぷしが強くて、ちょっと思い込みが激しいところもご愛敬な可愛いヒロインだし、お芝居も笑って泣いてものすごく楽しかった〜。ぜひ通しで見てみたくなりました。やっぱり文楽って面白い!