荒野

荒野
 探し回ったあげく、古本で購入してから、ずいぶん長いこと積ん読状態でした。
 ミギーさんの挿絵が、雰囲気ぴったりのういういしい「恋」物語でした。女の子が、びくびくしながらも、果敢に、ちょっとずつ「女」になっていく心の動きが、鎌倉の季節の移ろいとともに描かれています。
 荒野の義母になった容子さんが、一筋縄ではいかない女性なのが良かったです。放任主義の父親とは別に、こういうお節介な大人が側にいてくれて、それを荒野がちゃんと受け止めて成長する。そして、最後には、彼女に「おかえり」と言ってあげられるようになるっていう、全体の構成がお見事でした。
この父親がまた、付き合う女性をモデルに恋愛小説を書くという、ある意味ひどい男なんですが、荒野のことはとても大切に愛しているところが憎めません。妻となった女性ですら、小説のネタにしてしまうというのに、荒野をモデルにという依頼は激しく拒絶するんですよね。まあ、つまり彼の小説がどんだけヒドイのかってことでもあるんですが(笑)。きっと、荒野のお母さんをモデルにした小説も、彼は書かないんだろうなー。
 「荒野」って変わった名前、と思っていましたが、「井上荒野(いのうえあれの)」という作家さんがいることを、こないだ清水真砂子さんの講演で知りました。井上荒野さんのお父さんも、井上光晴という作家さんなんだそうで。