ふちなしのかがみ

ふちなしのかがみ
踊り場の花子 ブランコをこぐ足 おとうさん、したいがあるよ ふちなしのかがみ 八月の天変地異

 こういう一般向けの小説集であっても、あくまで若い読者を意識している、ということがあとがきから伝わって来ます。内容は、決してジュブナイルというわけでもライトノベルっぽいわけでもないんですが。いまさらながら、ヤングアダルトと一般の境目って、以前よりずっと曖昧になっているんだなあ、と(ホントに今更ですが)痛感します。「おとうさん、したいがあるよ」以外は、(「ふちなしのかがみ」は微妙ですが)学校社会におけるヒエラルキーが痛々しく描かれていて、そのあたりはジュブナイルっぽいかな。
 どの話も、現実が徐々に浸食されていく違和感や恐怖を描いていますが、中で「おとうさん、したいがあるよ」は、強烈な異彩を放っています。痴呆状態の祖母たちの生活にリアリティがある一方で、死体処理の現実感のなさに、ものすごく落ち着かない気分になりました。いったい誰が現実を見ているのか、それとも登場人物の誰もが妄想の世界にいるのか、最後まで分からなくて、納得できなくて、そういうノイズが残るからこそ、忘れられない…。主人公が祖母宅を片付けるきっかけになった来訪が「先週のゴールデンウィーク」で、エピローグで葬式に訪れたときにめくられずに止まったままの日めくりカレンダーの日付が五月五日というのが、なにかのヒントなんだろうけれど、考えようとすると霧の中に迷い込んだようにループしてしまいます。