天山の巫女ソニン五大地の翼

天山の巫女ソニン(5) 大地の翼
 巨山から国交回復のためイェラ王女が親善大使として沙維を訪れた。しかし王女は去り際にソニンに不吉な未来を告げる。
 シリーズものは、ついつい前巻までの出来事を忘れてしまいがちですが、これには懇切丁寧で、かつ非常に分かりやすくまとめられた「はじめに」がついていて、親切設計です。これもたぶん作者が書いているんだろうけれど、こういう箇所にも著者の優しさや真面目さが表れていて、好感度大です。
 最終巻です。3国すべてが大きな戦争に飲み込まれる波乱の展開だったので、上下巻でじっくり読みたかったような気もしますが、戦場に出ないソニンの視点から紡がれるこの物語では、このくらいのボリュームがやはりちょうどよいのでしょう。最後まで、ぶれることなく、著者にしか書けない世界を書ききったことに、読後静かな感動を覚えました。
 耳を澄まし、目をこらして、戦争が起こるときの不穏な雰囲気や、人々の思惑を読み取ろうとする主人公のソニンが、この物語の魅力の一つです。聖と俗、どちらでもないニュートラルな立ち位置で、周囲に安らぎや、ある時は気づきを与えていく、そういう触媒のような役回りの女の子です。ストレートに「いい子」なのに、こんなにイヤミがないのも、意外と珍しいような。
 あと、イウォル王子の出立のシーンには鳥肌が立ちました。男が女の手をとって自分の頬に触れさせるというエロティックと言ってもいいシチュエーションなのに、そこには人と人とがつながりあうという根源的な絆が純化されて描かれているように感じました。