国立文楽劇場開場25周年記念夏休み文楽特別公演 第1部親子劇場「五条橋(ごじょうばし)」「化競丑満鐘(ばけくらべうしみつのかね)箱根先化住居の段」第3部サマーレイトショー「天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)」

「「化競丑満鐘(ばけくらべうしみつのかね)」
 妖怪好きならこれを見逃す手はないぜ! 登場するのがすべてお化けという、滝沢馬琴原作の「「化競丑満鐘(ばけくらべうしみつのかね)」です。実際に人形が演じたのは昭和44年という、古いんだか新しいんだかよく分からない演目ですが、全編チャリ場といってもいい、駄洒落有り下ネタ有りの軽妙な文楽でした。パンフレットの解説は「妖怪天国ニッポン!」の企画学芸員香川雅信氏。いや、よく分かってらっしゃる。最近、江戸時代の妖怪文化に関する本や展示に触れる機会が多いので、その空気を色濃く感じられる舞台を見られて、望外の喜びでした。
 登場する妖怪は、主家の宝を奪われて謹慎中の狸、その妻雪女、一子河童、主家の姫君ろくろ首、雪女の兄かわうそ、お家簒奪を企む天狗の家臣かまいたちなどです。一人遣いの村人やかまいたちの家来の人形も、大根の化け物や、一つ目だったり二つ目の妖怪になっていました。
 河童が、蓑傘かぶって豆腐を持って登場したときには、豆腐小僧かよ! と思わずツッコミ。その豆腐を雪女が料理してたときには、凍(し)み豆腐になるだろー! とまたまたツッコミ。しかし、なんと言っても圧巻は、ろくろ姫様の首ですね。するするする〜っと延びて舞台いっぱいに首が浮かぶのは予想の範囲内でしたが、5mは伸びていた首が、再びしゅるしゅるっと胴体に収納されたのには驚いた! どういうカラクリになっているんでしょう。離ればなれになった胴と首が、それぞれに上品に恥じらうのが芸コマ!でした。
 しかし、喜劇とはいえ、それでも人(妖怪ですが)は主君のために、夫のために死ぬんだよなあ、なんでだ。最後井戸の上に雪が舞い散るから、井戸から雪女が復活するかと期待したのに〜。井戸といえば、口上でも、「とざいとうざい〜このところ〜あいつとめまするは〜」と黒子が三角の布をつけてどろどろどろっと上がってくるという楽しい趣向でした。声もいつもの張りのある出し方ではなくて、ちょっと震えるような感じで、雰囲気出てましたね。

「天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)」
 日英協会100周年の記念行事として、能、歌舞伎、文楽でそれぞれシェークスピアを翻案して作品をつくったものなんだそうです。残念ながらロンドン公演には間に合わず、初演は1992年に大阪で行われたのだとか。
 嵐の海を背景にして、三味線と琴のが舞台正面に上がり表現した暴風雨のシーンは面白かったんですが、第2幕と3幕はやや退屈で寝てました。美登里(ミランダ)と春太郎(ファーディナンド)が出会うあたりから面白くなってきます。阿蘇左衛門(プロスペロー)が使役する空気の精英里彦(エアリエル)は虹色の薄衣をまとった少年の姿ですが、他にも、雀や白鳥、ペリカン、エイリアン(!?)がひらひらの衣装で妖精のコスプレをして登場していました。俵藤太や土蜘蛛のムカデとオニグモも登場して、夏休み親子劇場夢のオールスターキャスト! という感じでした。文楽の人形というのは、伝統芸能という先入観で思っているよりもずっと種類が多くて楽しいものなんだと思います。演出も、チャリ場では、茶坊主珍才が携帯電話を取りだして算盤ならぬ電卓をはじいていて(遭難しているんだから電話しろよ、とも思いますが、きっと圏外だったのでしょう)、「わらかし」はさすが大阪の芸能だなあ、と。
 文楽には珍しく、誰ひとり人が死なない大団円で、とても爽やかな気分で劇場を後にできました。やっぱり文楽は面白い!