壊れても仏像 文化財修復のはなし

壊れても仏像―文化財修復のはなし
 仏像の修復というと、有名寺院や博物館の所有しているものがすぐに頭に浮かびますが、日本には全国津々浦々に地域で信仰されている仏像があり、それらは修復されることで現代に受け継がれているわけです。そういった有名無名の仏像の修復を手がけてる著者が、仏像修復にまつわるあれやこれやを軽妙な語り口で記述する、風変わりな仏像の本でした。
 日本の30代男性だと平均なのかもしれませんが、仏像の作り方をガンプラ制作過程と重ねて説明したり、腐った仏像に指がめり込む様を「北斗の拳」にたとえたりして、そこはかとなーくマニアック。一方で、仏像修復をバトンの受け渡しにたとえて、古いものを受け継ぐ心の大切さを述懐するなど、修復する姿勢にはとても真摯なものを感じます。
 歴代の修復過程で持物や印を替えられて変身している仏像があるとか、仏像の種類や制作年代の見分けは専門家にもなかなかつかないし、科学鑑定にかけても最終的には鑑定者の職人的な目利きによって差が出てしまうなどの話を知ると、仏像って、そんなにかしこまって見なくても大丈夫なんだな、と安心します。他にも、運搬するときの工夫や、修理するときに出るホコリの使用法など、修理ならではの話題に興趣が尽きません。著者が繰り返すのは、今まで受け継がれてきた仏像で、修理を受けていないものはほとんどないということです。そうして、修理の苦労話から浮かび上がってくるのは、ものを受け継いできた過去から現在までの人々の想いなのでした。
 一番おもしろかったのは、「胎内納入物」といって、仏像の中に入っているもののお話でした。仏像や経典などが入っていることがあるのは、時々ニュースになるので知っていましたが、髪の毛などの個人的な記念品や(←ここまではまあ分かります)、ネズミの骨や蛇の抜け殻、ゴの糞、そして彼らの巣などまで書いてあるのには驚きました。「納入」したものじゃなくて入ってきたものでしょうが、言われてみるまでそんなものが入っている可能性って考えてもみませんでした…。
 添えられたイラストも味がある上に、説明を補うという意味で非常に分かりやすかったです。仏像の種類を示すのに、<如来←えらい…天部←それほどでも>とあったのには笑ってしまった。
 その仏像がどのような修復を経て現在そこにあるのか、これからはそういう視点でも仏像を見てみようと思いました。